「テロリストへの共感が欠如」

再考 オバマの世界観(1)

 オバマ米大統領の下で、世界における米国の指導力、影響力が急激に低下している。「世界の警察官」の役割を放棄し、国際問題への関与を減らす内向き姿勢が、中国やロシア、イラン、過激派組織「イスラム国」の増長を許している。国際秩序を不安定化させるオバマ氏の対外政策の背後にある「世界観」を再考する。(ワシントン・早川俊行)

9・11攻撃受けた米を責める

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2月5日、ワシントン市内で開かれた「全米祈祷朝食会」でスピーチするオバマ米大統領(UPI)

 2001年9月11日に米国を襲った同時テロの8日後、「ハイドパーク・ヘラルド」というシカゴのコミュニティー紙に、当時、イリノイ州上院議員で、全国的にはまだ無名だったオバマ氏の声明が掲載された。オバマ氏はその中で、同時テロを引き起こした要因を次のように分析した。

 「この悲劇の本質は、攻撃した者たちに対する共感の根本的な不在、つまり、他者の人間性や苦しみを想像・連結する能力の無さに由来する。多くの場合、(テロは)貧困や無知、無力、絶望から生まれる」

 全米が同時テロに対する恐怖と怒りに覆われる中、オバマ氏はテロ攻撃を受けた責任の一端は米国自身にあると断じたのである。残虐なテロで約3000人が殺害されたにもかかわらず、テロリストに対する同情の欠如が悲劇をもたらしたと論じたのである。

 オバマ氏は貧困と無知がテロリストを凶行に走らせると指摘したが、同時テロの実行犯の大半は、中流階級以上の家庭で育った高学歴者であり、貧しかったわけでも無学だったわけでもない。オバマ氏はさらにこう主張した。

 「いかなる米国の軍事行動も海外の罪無き市民の生命に配慮しなければならない。中東出身者に対する偏見や差別に断固反対しなければならない」

 テロとの戦いにどう打ち勝つかよりも、米国の過剰反応やイスラム教徒に対する米国民の偏見が、オバマ氏にとってより大きな懸念だったのである。

 オバマ氏の世界観を端的に示したといえるこの声明をどう見るべきか。保守派評論家でワシントン・タイムズ紙電子版論説エディターのモニカ・クローリー氏は、こう解説する。

 「世界の不義や米国に対する憎悪は自分たちの責任だという左翼主義の中心にある典型的な反米主義だ」

 同時テロから7年後、オバマ氏は大統領となり、6年以上にわたって世界の舵(かじ)取りを担ってきた。だが、オバマ氏の世界観は同時テロ当時と基本的に変わっていない。

 それを物語るのが今年2月、ワシントン市内で開かれた「全米祈祷朝食会」でのスピーチだ。1月にフランスの風刺週刊紙シャルリエブド本社が銃撃される事件が発生し、国際社会が結束してイスラム過激派に立ち向かおうとする機運が高まる中、オバマ氏はこう言い放った。

 「十字軍や異端審問(異端な信仰を持つ者を処罰する裁判)で、人々はキリストの名で恐ろしい行為をした。米国でもキリストの名で奴隷制度やジム・クロウ(南部で行われた黒人隔離政策)が正当化された。我々には信仰を悪用・歪曲(わいきょく)する罪深い傾向がある」

 過去に多くの過ちを犯したキリスト教徒や米国には、イスラム過激派の残虐行為を一方的に非難する資格はないとの認識を示したのである。地方議員時代ならまだしも、自由世界のリーダーたる米国の最高権力者が、わざわざイスラム過激派と戦う道義的立場を貶(おとし)める発言をしたことに、「ばかげている」(元米国防総省高官)と多くの人を唖然(あぜん)とさせた。

 フランスの連続テロ事件後、パリで各国首脳40人以上が参加するパレードが行われたが、そこにオバマ氏の姿はなかった。ホワイトハウスは政府要人を派遣すべきだったと後悔したが、オバマ氏と自由を守るために立ち上がった各国首脳との深刻な価値観の相違を浮き彫りにした。

 オバマ氏が過去の米大統領とは大きく異なる世界観の持ち主であることは間違いない。