埋め立て「撤回」、辺野古の政治利用は無責任だ


 沖縄県は米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設をめぐって、仲井眞弘多前知事による埋め立て承認を撤回した。

 9月13日に告示される県知事選を前に「移設反対」の機運を高める狙いだろう。しかし、辺野古移設は普天間飛行場の危険性を除去しつつ抑止力を維持するための唯一の方法であり、この問題の政治利用は極めて無責任だ。

 翁長氏の遺志踏まえ

 承認撤回は8月8日に死去した故翁長雄志知事の遺志を踏まえたものだ。謝花喜一郎副知事は、埋め立て区域に軟弱地盤が見つかったことやサンゴの環境保全対策に問題があることなどを根拠として列挙した。

 謝花氏は「政治的な判断は一切ない」としている。だが、この時期の撤回は知事選に大きな影響を与えよう。

 翁長氏の「後継」として知事選への立候補を表明している自由党の玉城デニー幹事長は「県の判断を強く尊重し、支持したい」と述べた。撤回を受け、「辺野古新基地建設阻止」を前面に掲げて「弔い合戦」に臨む考えだろう。移設問題を政治利用しようとする姿勢は無責任極まりない。

 辺野古移設は日米両国の合意に基づくものだ。実現できなければ両国間の信頼が損なわれ、日米安保体制が大きく揺らぎかねない。

 普天間飛行場の危険性除去も喫緊の課題だ。昨年12月には、米軍ヘリコプターの窓枠が普天間飛行場に隣接する小学校の校庭に落下する事故も起きた。辺野古移設に抵抗してきた翁長県政が、結果的に危険性除去を遅らせているのである。

 辺野古移設を「米軍基地の県内たらい回し」と批判する向きもある。しかし、沖縄が戦略的要衝であることを忘れてはならない。沖縄の米軍が日本の抑止力維持や地域の安定に果たす役割は大きい。

 日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増す一方だ。北朝鮮は6月の米朝首脳会談後も核物質の生産や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の製造を続けている。中国は沖縄の島である尖閣諸島の領有権を一方的に主張し、

尖閣周辺で領海侵入を繰り返している。北朝鮮や中国ににらみを利かせる在沖米軍の存在は欠かすことができない。

 沖縄県の承認撤回に対し、政府は近く執行停止を裁判所に求める方針だ。裁判には数週間から数カ月かかる見通しで、政府側の主張が認められれば工事再開が可能となる。政府は県知事選に配慮し、工事再開を10月以降に先送りする考えだ。辺野古移設を着実に進めるとともに沖縄県民の理解を得るための取り組みを続ける必要がある。

 基地負担軽減も進めよ

 もちろん、抑止力を損なわない範囲で沖縄の基地負担軽減も進めなければならない。2016年12月には、米軍北部訓練場の面積の半分以上に当たる約4000㌶の土地が日本に返還された。

 そして辺野古移設も負担軽減の一環である。安全性向上や騒音の軽減だけでなく、普天間飛行場の跡地活用は県の振興にもつながろう。