衆院では中選挙区制復活を
二大政党制は世界の傍流
数合わせ再編招く小選挙区制
非自民政党の政党再編には、常に「自民党政権に代わり得る政権の受け皿作り」が掲げられる。また、さまざまなテレビや新聞が、政権交代が一定のペースで繰り返される二大政党制こそ民主的な政党システムの典型であると主張する。
しかし実は、世界各国において、二大政党制はかなり少数派の体制にすぎない。戦前から日本が模範と仰いできた英国の議会政治においては、確かに戦前戦後を通じて二大政党政治が行われてきた。また、アメリカでも、共和党と民主党の二大政党政治が続いている。しかし、それ以外の国はどうだろうか。
東京大学出版会の現代政治学叢書シリーズの書籍『政党』において岡沢憲芙氏(現、早稲田大学名誉教授)は、二党制は「現実政治の世界ではごく例外的な存在」と述べた上で、政党システム研究の泰斗、サルトーリの「厳密な意味では、イギリス、アメリカ、ニュージーランドの三カ国である」という見解を紹介している。
つまり、英国とアメリカがどうであれ、二大政党制は世界で稀有(けう)なシステムで、日本が目指さなければならない謂(いわ)れは露ほどもないのである。たとえ日本人の中に、源平合戦や紅白大運動会のような、天下を二分した決戦を好む性癖があるにしても、二大政党制への無用の憧れを捨てて、有効に機能する日本的政党システムを目指すべきなのではないか。
民主的な議会システムに求められる機能は、民意を的確に反映する与党の政策立案とそれに沿った予算と法律の制定、それを執行できる政府の構築と、野党による行政の監視と現政府の政策の代替案の提示、そして長期政権の馴(な)れ合いと腐敗の防止であろう。それができれば政権交代が滅多になくても、二大政党制がなくても構わない。
二大政党制の構築を目指さなければ、今日の衆議院で、野党にとって意味ある議席数は、とりあえず法案提出が可能となる30議席か、予算を伴う法案提出も可能になる50議席以上である。つまり野党は、過半数を目指さないとしても、この関門は越えなければならない。しかしながら、現行の衆議院の選挙制度で一つの野党が50議席を獲得するには、比例代表区だけでは困難で、小選挙区でも相当な議席を得なければならない。例えば2012年の民主党は、比例区30と小選挙区27で57議席、14年の民主党は比例区35と小選挙区38で73議席、17年には立憲民主党が比例区37と小選挙区18で55議席、同じく希望の党は比例区32と小選挙区18で50議席である。
そして小選挙区で議席を獲得するには、当該選挙区で自民党を上回る支持票を得なければならないから、「二大政党制実現」の掛け声を掛けながら、野党各党は無理して多数派工作をして政党合同を進めることになる。この結果として憲法改正や外交・防衛などの基本政策が異なる政治家の合従連衡が起きる。しかしこうして設立された政党には、主要政策の見解が異なる人々が包摂されるから、党としてまとまった主張が持てなくなる。これではまともな議会論戦ができないので、存在感を示すためには、やみくもな政府批判を繰り返す。民主党政権の成立もそうであったが、その後の野党再編の本音はおおむねこんなところであろう。
流動化する国際情勢、深刻な東アジアの安全保障環境がありながら、国会において、憲法、外交・国防政策、経済・産業政策についての真摯(しんし)な議論が展開される代わりに、首相、あるいはその関係者への攻撃のための攻撃に終始する昨今の一部野党は醜悪であり、このような国会しか持てない日本国民は不幸である。
衆議院で小選挙区比例代表並立制が採用されてから四半世紀、今日の国会の姿を見れば、この選挙制度が有効に機能する政党システムの構築に失敗したことは明らかである。
振り返ってみれば、1993年に成立した細川護煕首相の非自民政権による選挙制度改革まで、衆議院では中選挙区制が実施されており、一つの選挙区の定数は3から5だったから、選挙区内で3分の1や4分の1程度の得票率の政党でも議席を獲得できた。全国合計ではそこそこの議席数を得られたから、基本政策を異にする政治家や政治グループは、それぞれ別の政党として選挙に臨み、それ相応の議席を獲得して存続した。しかし、中選挙区制では政権交代がないのはけしからんという理由で、小選挙区比例代表並立制が導入された。そもそも二大政党制が世界標準かのような嘘(うそ)を振りまいて、選挙制度改革が推進された背景には、自民党長期政権が気に入らない革新派の策略もあったのではないか。その結果が今日の体たらくである。
しかしそもそも、自民党政権から非自民連立の細川内閣への政権交代は、中選挙区制下の総選挙によるものだった。だから中選挙区制性悪説は間違っている。昨今の無茶な政党再編や合従連衡と、その結果による不毛な政局を脱するために、今日の小選挙区比例代表並立制を終わらせて、中選挙区制を復活させるべきではないか。
(あさの・かずお)






