今こそバッジの着用を、河野外相と辻元議員に訴える

山田 寛

 「千載一遇の最後のチャンスだ」。北朝鮮拉致被害者の家族は今、米朝首脳会談で(またその後あり得る日朝首脳会談で)、事態が大進展するよう必死に祈っている。

 私は昨年9月のこの欄で、「河野外相は拉致被害者救出運動のシンボル、ブルーリボン・バッジをつけるべきだ」と訴えた。

 9月以後、トランプ米大統領が国連演説で横田めぐみさんを念頭に北朝鮮を指弾し、来日の折、家族会に「尽力」すると言い、米朝首脳会談開催を決断後、安倍首相に拉致問題も会談で取り上げると約束した。先週、被害者家族も訪米、“最後の訴え”に奔走した。

 だが、そんな中、外務省HPの写真で見ると、先月末までの半年間に河野外相が出席した国際会議や外国要人との会談57回のうち、外相の胸元に青いバッジが見えるのはたった7回。先月11日、訪韓し文在寅大統領に「南北首脳会談でも拉致問題を議題に」と要請した、そんな大事な会談でも着用していない。

 安倍首相はいつもつけている。北朝鮮に日本の決意を示し、国際的理解と支援を得るため、意味は大きい。

 最近、兵庫県が県職員全員にバッジを配布し、家族会は「団結の決意表明だ」と歓迎した。日本はバッジ着用を強制する全体主義国と違う。だが、今やヤマ場だ。外相は襟に常時バッジを縫い付け、団結と決意の最前線に立つべきではないか。

 河野外相の全体評価は悪くないが、外務省は過去、慰安婦問題への消極対応などで、「国民と国益を守る努力が不十分」と批判もされてきた。例えば、2007年ミャンマー軍政下の反政府デモ取材中に治安部隊に殺された、映像ジャーナリストの長井健司さん(当時50歳)の遺品のビデオカメラ。遺族は返却を希望し続けている。

 日本は現ミャンマー政権と友好関係を誇る。国連でロヒンギャ迫害非難決議が採択された時も、政治配慮で棄権した。でもカメラすら戻せない。

 野党や左派メディアにも言いたい。拉致問題にどれだけ強い関心を示してきたか。まさか「反安倍が第一。安倍政権に点数を稼がれないよう、被害者救出は倒閣後が望ましい」などと考えてはいないだろうが。

 国会は審議拒否トンネルの中で、立憲民主党の辻元清美国対委員長がニュースに頻繁に登場してきた。北朝鮮が拉致事実を認める前の01年、社民党議員だった辻元氏は、「北朝鮮には補償も何もしていないのだから…『9人、10人返せ』ばかり言ってもフェアじゃない」との“名言”を吐いて名を馳(は)せた。

 拉致被害者家族を深く傷つけた親北発言。北の態度は最近も、この辻元発言と重なる。平昌五輪開会式に出席した金永南・最高人民会議常任委員長が、歓迎宴で安倍首相にピシャリ、「日本の植民地支配の謝罪と賠償が先だ」と言ったと報じられている。

 党機関紙の労働新聞は、「安倍一味は、森友などの問題による政権の危機を免れるため『拉致問題』や『最大の圧力』を持ち出している」と書いた。

 金正恩委員長は南北会談の際、日本と対話する用意があると言ったという。ただ、文氏が「日本は、特に過去の清算を基盤に国交正常化を望んでいる」と甘い言葉で伝えたのに答えたものだ。現段階では、金氏の拉致問題対応が変化するのか全くわからない。

 もし辻元氏が以前の発言を多少反省し、意見修正をしているなら言葉と態度で示すべきだ。態度で示すにはやはりバッジである。彼女も別の意味でキーパーソン。その胸に青いバッジが光れば、労働新聞もああは書けまい。それなりのインパクトがあるに違いない。

(元嘉悦大学教授)