市長選結果を受け入れず民主主義を否定する沖縄タイムスの阿部氏

◆「敗者は民主主義」?

 「敗者は日本の民主主義」。こんな見出しの解説記事に思わず「えっ!?」と唸(うな)ってしまった。

 沖縄県名護市の市長選挙で米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する現職、稲嶺進氏が移設容認派の与党候補、渡具知武豊氏に敗北した。だから敗者は紛れもなく稲嶺氏だ。それを地元紙、沖縄タイムス(以下、タイムス)は「名護市長選の陰の勝者は、安倍政権だった。そして陰の敗者は、日本の民主主義だった」と論じている(5日付「視点」阿部岳氏)。

 確かに陰の勝者は安倍政権だろう。政府・与党挙げて渡具知氏を支援していたからだ。だが、敗者が「日本の民主主義」とするのは解せない。

 阿部氏が言うには、直前の世論調査でも市民の3分の2が辺野古移設に反対している。稲嶺氏はその民意を体現して阻止に動いてきた。日本が民主主義国家であるなら、工事は当然止まるはずだ。だが工事が進められ、市民は止められる希望を持てなかった。それで稲嶺氏が負けた。だから日本の民主主義の敗北――。

 あまりにも独善的な論理ではないか。移設工事は法に則(のっと)って進められている。翁長雄志知事は前知事の埋め立て承認を取り下げたが、最高裁は2016年にこれを違法と断じた。だから「日本が民主主義国家であるなら、工事は当然進む」と言うべきだ。

◆「振興」選んだ有権者

 タイムスは市長選を「天王山」と位置付け、稲嶺陣営と歩調を合わせ「辺野古」の争点化を図った。渡具知陣営は「地域振興」を訴えたが、投票日の4日付には「新基地建設に審判」の大見出しを躍らせ、露骨に稲嶺陣営に肩入れした。琉球新報が「辺野古、振興に審判」としたのとは対照的だった。

 投票率は約77%という高さで、有権者は約3500票の大差で「振興」を選んだ。明らかに反辺野古派の敗北だった。それを「民主主義の敗北」とするのは民主主義を否定し、市民を愚弄(ぐろう)するものだ。

 阿部氏の「視点」はタイムスの中でも異様だった。6日付の「記者座談会」では選挙取材に関わった記者らが「全国から稲嶺氏の支援に来た『外人部隊』が市内中で運動し、市民が引いてしまったこともあった」「県外の共産党支援者が多くを占め、『なぜ外から来た人が沖縄の選挙をするのか』と批判された」と稲嶺陣営の実態を証していた。

 また「変化の先に 名護市民の選択」との連載では、これまで県内各地の選挙で「オール沖縄」を支援してきた元会社社長が熟考の末に「稲嶺市政は『金がない』とまちづくりに非協力的。市政を変えたい」と渡具知氏支持に転じた話を記している(7日付)。

 連載9日付では大学4年の男子学生を紹介する。2015年に辺野古の座り込み現場を訪れ、「辺野古に基地はいらない」と考えるようになったが、「足を運び始めて3カ月目に転機が訪れる。路上駐車を注意した地元住民に対し、運動の参加者が強圧的に反論する場面に出くわした。『市民と敵対する運動でいいのか』。疑問が拭えず、辺野古から足が遠のいた」。そして渡具知氏を支援するに至った。

◆食わせ物の世論調査

 こうした記事は稲嶺氏が敗れるべくして敗れたことを示している。それでも阿部氏は「民主主義の敗北」と言い募るのだろうか。選挙後、タイムスは世論調査では市民の3分の2が辺野古移設に反対だとして、選挙よりも世論調査の方が正しいと言わんばかりに反辺野古論調を張っている。往生際が極めて悪い。

 だが、この世論調査は実に怪しい。地元2紙と共同通信による12投票所での出口調査で、辺野古移設「反対」が64・6%に上ったとするが、回答したのは1236人、回答拒否はほぼ同数の1223人だった(タイムス5日付)。

 このことは何を意味するのか。市民は地元紙が反辺野古なのは百も承知だ。その調査員から移設賛否の表明を迫られるのだから、渡具知支持者の多くが逃げ出し、回答を拒否したのではないか。おまけに有権者の約6割(2万1660人)が期日前投票で、こちらも渡具知陣営の組織動員が多かった。これも無視だ。

 だから世論調査は食わせ物だ。それにもかかわらず世論調査を金科玉条とするのは虚偽報道に等しい。偏向の批判は免れまい。

(増 記代司)