憲法の平和主義とは何か

竹田 五郎軍事評論家 竹田 五郎

学ぶべきは「正しい戦争」
核戦力の脅威下にある日本

 9月28日付の東京新聞は「憲法と立憲主義の危機」と題し、臨時国会の冒頭解散について憲法学者らの緊急声明について報道している。その要旨は次の通りである。

 27日、憲法研究者有志89人が「解散、総選挙に至る手順は議会制民主主義の趣旨にそぐわない」との声明を発表。今回の解散は解散権行使乱用で、憲法の趣旨に違反すると主張。総選挙では改憲が争点にされるとし、安倍総理提案の憲法9条への自衛隊の存在の明記は、憲法の平和主義への大きな脅威だと訴えている。

 憲法の平和主義とは何か。一般に、国民は平和憲法と称し、一部には「9条をノーベル賞に推薦せよ」と運動する会すらもある。

 9月24日付の産経新聞は、古森ワシントン駐在客員特派員の「北の脅威 危険な『護憲』の旗」と題し、改憲の必要論を掲載している。その要旨は次の通りである。

 北鮮の核、ミサイルの軍事脅威に対し、日本は軍事面での防衛も抑止も、無力であり、平和憲法と言う虚名の下に軍事を拒否してきた。軍事とは国防のための物理的な力の保持であり、主権国家には不可欠である。安部総理は、北鮮のミサイル発射、核実験のたび「断固許さない」と言明するが、全く無効だった。北鮮の核脅威には軍事以外の対応も必要だが、「日本列島を核爆弾で海に沈める」という威嚇も基盤は軍事である。だから日本の対応も防御も、最悪の場合に備え軍事的要素が必要である。日本はその能力を欠くため、日米同盟の強化が必要だ。しかし、日本の首相が米国大統領と会談することなのかとの皮肉な感想もつい浮かぶ。野党も北鮮危機に対し、他国との協力と連携を強調するだけで、日本自身の軍事面での対処には沈黙のままである。この現状は、憲法9条が、軍事全てを否定する趣旨の規定だからだ。軍事的脅威に直面した日本が、非軍事的対処では、脅威は増すばかりとの苦境に追い込まれても、9条は軍事的防御には他国との共同を禁じている。まさに自縄自縛である。米国では、日米同盟強化のために、日本国憲法改正を求める声が超党派で広がってきた。大手紙ウォールストリート・ジャーナルは「憲法9条は日本の防衛にとって危険だ」との主張を社説で打ち出した。護憲派は、今こそ9条の真価を発揮させて、北鮮の軍事脅威をなくしてほしい。それが不可能ならば、危険な「護憲」の旗を降ろしてほしい。

 本論文の結論として「今こそ9条の真価を発揮してほしい」とは何を意味するのか曖昧だが、「話し合いによって、解決せよ」との意味であろう、と愚考する。しかし問題は北鮮の核戦力保有の認否いかんにある。核戦力の廃棄は金王朝滅亡となりかねず、北鮮は承諾しないだろう。

 10月17日付の読売新聞は、「北朝鮮は、米韓海上訓練を非難し、何にでも対処できる」と豪語し、新たな軍事挑発の可能性を示唆し、さらに「米国との力の均衡を完成するまで核、ミサイルの開発続行を強調した」と報道した。

 北朝鮮が長距離ミサイルの開発を放棄しても、日本、韓国は、既に核戦力の脅威下にある。政府は軍事的対策(専守防衛、非核3原則の見直し)、およびあまりにも無関心だった核被害対策、民間防衛について検討し、指針を示すべきである。

 10月4日付の朝日新聞夕刊は、1面の約4分の1を使い「自宅に核シェルター 日本特需」「注文2年前はゼロ→今年100件超」と題して、日本では普及していない家庭用核シェルターの注文や問い合わせが、夏以降、殺到していると報道。その日本における普及率は0・02%と極めて低く、スイス、イスラエル、ノルウェーは100%、米国、ロシアは約80%である(パーセンテージは8月18日付の産経新聞夕刊と若干の差あり)とし、さらに、その施工には20畳で2500万円、空気清浄機180万円であることまで紹介している。

 筆者は、北鮮の核攻撃に対する日本の防衛は、軽装備で、古城に籠城し、重砲装備の軍と交戦するような戦で、強力な援軍がなければ、残念ながら敗戦は必至と思う。本欄で、戦後の日本は、米国の強い抑止力と、精強とはいえ自衛隊と称する似非(えせ)的軍を維持し、平和に恵まれたのであり、日米同盟は日本の命綱である、日本国憲法の平和主義により、平和と独立を得たのではない、と述べてきた。他国には、独立国として珍奇で、保護国の憲法かと軽蔑されていないかと、懸念している。

 朝日新聞は、集団的自衛権の行使を違憲として「新安保法」に反対のようである。独裁国の核戦力保有は、周辺諸国にはもとより、全世界に脅威を与える。恒久平和は万民の願いであるが、世界は、憲法前文に示すような公正と信義によって成立する桃源郷ではなく、平和の祈り、「話し合い」だけでは実現しない。強盗に対するには、要求に応ずるか、死を覚悟して拒否し、武装警官の救助を期待するほかない。憲法の平和主義を信奉する前に「漢書に学ぶ『正しい戦争』」(桜田淳著)を熟読し、5種の戦争、特に義兵、応兵について学ぶべきであろう。

(たけだ・ごろう)