首相の所信表明演説に異なる意味で「物足りぬ」と注文を付けた各紙

◆簡潔だが具体性欠く

 安倍首相の17日の所信表明演説は、ボリュームが約3500字と第1次から4次の安倍政権下では最短となった。平成以降の歴代首相と比べても、小泉純一郎氏が「郵政選挙」(2005年)後の特別国会で行った最も短い約3200字の演説に次ぐ短さ。昨年9月の臨時国会での約7300字の約半分で、先の衆院選挙勝利を受け、北朝鮮危機と少子高齢化問題の国難克服への決意に力点を置いた簡潔なものとなった。同時に、重要政策を着実に推し進める姿勢を強調して、計8回もの「実行」を連呼したのが際立った。

 この所信表明に対する衆院本会議の各党代表質問が始まったが、各紙は18日に一斉に論調を掲げた。その中で「物足りない」と注文を付けたのは産経、読売、小紙、毎日の4紙であるが、その意味合いはそれぞれ違った。

 「極めて物足りない」と強調した産経は「自ら争点に掲げた2つの国難の突破を冒頭で述べたのは妥当」と評価したが、その肉付けが「選挙中の演説内容と、さほど変わらない」ことにかみついた。首相が約束した「防衛力の強化」は評価しても「その方向性が見えない。ミサイル防衛体制だけでは十分でなく、敵基地攻撃能力の整備は欠かせない」と政策の具体化へ大きく踏み込むよう求めたのである。

 少子高齢化問題の克服でも産経は、幼児教育などの無償化だけでは乗り切れないとして疑問を突き付けた。「人口激減に備え社会の仕組みを作り直す、全体的な構想をまず語る」ことを求めた。憲法改正でも「9条などの改正項目や実現時期には言及しなかった」ことを不満としたのである。

◆弱かった改憲の訴え

 これらの点では読売も、長期政権が視野に入りながら「将来展望を示さなかったのは物足りない」としたが、今後の審議で具体的に語られることに期待をつないだ。その一方で急務の少子化対策については「費用対効果を見極めて、バランスの取れた制度設計に知恵を絞らねばなるまい」と安易なバラマキを強く戒めた上で、「財政再建の新たな道筋を早期に明確にすべきだ」と迫ったのは妥当な指摘である。

 憲法改正への言及で「具体的な改憲項目などに触れなかったのは物足りない」としたのは小紙だ。「首相はもっと積極的に改憲を訴えるべきだ」と強く主張した。また中国に対する姿勢で「来日したトランプ米大統領との会談で推進を確認した『インド太平洋戦略』に言及しなかった」ことに懸念を示したが、このことに留意する必要があろう。

 毎日は「選挙で信任を受けた政権として、危機的状況を乗り切るビジョンを国民に示す責任がある」のに「第4次内閣となって最初の国会演説がこれでは物足りない」と批判した。少子高齢化の克服では「キャッチフレーズを強調しただけで、社会保障制度の将来像を描くことはなかった」。北朝鮮問題でも「説明不足だ」。憲法改正でも「公約に盛り込んだ『自衛隊の明記』などの改正項目に関する説明も演説にはなかった」と指摘するが、手ぐすね引いて構えていたのに、首相の慎重姿勢に肩すかしを食らったという意味合いの「物足りなさ」である。

◆相変わらずの朝日

 「物足りない」という語句はないが、日経はそれを感じながら物足りないことへの理解を示しつつ、しっかり注文を付けているのがいかにも日経らしくて面白い。演説が衆院解散の理由とした課題を柱として新鮮味がないのは「選挙後の特別国会であり、街頭演説の繰り返しのような中身だったのはやむを得まい」と受け流した。

 その上で「アベノミクスもいよいよ『結果』が求められる時期だ。言葉だけに終わらせない取り組みを求めたい」「特に『確実に実現していく』と断言した財政再建化への道筋は、できるだけ早く明確にすべきだ」と、やんわり迫っている。激しい言葉だけの批判よりも、こちらの方が厳粛に責任を果たそうとさせられるのではないか。

 さて、朝日新聞。すでに小紙(21日・上昇気流)が指摘するように、相も変わらず「森友・加計問題」追及が第一課題とする主張の繰り返し。社説タイトルは「首相こそ『建設的』に」だが、そっくり「朝日こそ『建設的』に」と投げ返した方がよさそうである。

(堀本和博)