イランへの対応をめぐるイスラエルのサウジ接近に賛否両論の各紙

◆変わる中東の勢力図

 イランとアラブ諸国の対立が激化、イランの宿敵イスラエルをも巻き込み、中東全域に及ぶ大変革の可能性が指摘され始めている。イスラエルの保守系紙エルサレム・ポストは、エジプトとの国交につながったサダト大統領のイスラエル電撃訪問などに言及しながら、サウジとの対イラン戦線での協力など関係構築の可能性を模索している。

 シリアとイラクで過激派組織「イスラム国」(IS)がほとんどの支配地を失う中で、中東の勢力図が変わろうとしている。IS殲滅(せんめつ)でイスラム教シーア派が多数派のイランの精鋭部隊「革命防衛隊」や、イラク、イランのシーア派民兵らが活躍、IS掃討後のイラク、シリアでイランが影響力を強めるとみられている。さらにレバノンのイラン系シーア派武装組織ヒズボラがシリアでアサド政権を支援し、存在感を示した。レバノンでのイランの影響力も拡大するとみられている。

 これらは、イスラエルにとっても、スンニ派が支配するアラブ諸国にとっても、大きな懸念材料だ。

 サダト大統領がイスラエルを訪問して今月19日でちょうど40年、訪問の2年後には、両国間の平和条約が結ばれた。ポスト紙は社説で「イランがシリアで成功し、レバノンでの影響力を増し、イスラエルにとって新たな課題が生まれた」と内戦後のシリアをにらみ、強まるイランの存在感に警戒感をあらわにした。

 内戦は昨年ごろから、IS掃討が進む一方で、アサド政権が圧倒的な優位に立っている。トランプ政権になってその流れにさらに拍車が掛かった。それを推進しているのが、ロシア、イランだ。

◆強いリーダーに期待

 ポスト紙は、「示威的な外交姿勢が国家間の関係のパラダイムシフトにつながることがある」と指摘、その例として1972年のニクソン米大統領の訪中、冷戦終結につながったレーガン大統領とゴルバチョフ・ソ連共産党書記長との首脳会談などを挙げている。

 ポスト紙は、今こそ「大胆な指導者が主導し、…地域の地政学的バランスを変えるチャンスだ」と強いリーダーによる転換に期待を表明している。

 同紙は、サウジアラビアのムハンマド皇太子のような指導者がイスラエルを訪問すれば「イスラエルとスンニ派アラブ諸国の関係にとって突破口となり、イランへの対応で協力できるのではないか」と指摘した。

 イスラエルのネタニヤフ首相は、右派リクードの党首として2009年から首相を務める右派の重鎮だ。また、ムハンマド皇太子は、サウジ経済の「脱原油」を強力に推進するとともに、保守的なイスラム教の戒律の適用にもメスを入れてきた。

 ネタニヤフ氏は最近「アラブの穏健な国家」との協力を示唆、また、イスラエル軍の参謀総長ガディ・エイゼンコット中将が、サウジのオンライン紙と異例のインタビューを行い、イランへの対応でサウジとの情報の共有の用意があることを明らかにするなど、イスラエルからサウジへのラブコールが相次いでいる。

◆危ういサウジの改革

 ところが、エルサレムのヘルツル研究所のハイブリー副所長はイスラエル紙イスラエル・ハヨムへの投稿で、ムハンマド皇太子率いるサウジは「トランプで作った家」であり、脆(もろ)いとイスラエルのサウジ接近に警鐘を鳴らす。ムハンマド皇太子が近代化、制度改革を進めれば、部族、宗教、石油利権という体制の「三本柱」を揺るがし、「王国の正当性は失われ」いずれ失敗すると主張している。

 また、イスラエル接近によって、中東でのサウジへの信頼が失われ、パレスチナ和平も困難になるとの懸念も出ている。

 ドーハ高等研究所のイブラヒム・フライハット准教授(国際紛争)はカタールの衛星テレビ局アルジャジーラへの投稿で、サウジ・イスラエル正常化は「危険だ」と主張する。

 米トランプ政権はクシュナー大統領上級顧問を通じて、サウジに働き掛けて中東和平問題を解決しようとしている。フライハット氏は、米国の中東和平案には「サウジとイスラエルの協力が不可欠」と指摘。だが、イスラエル寄りとみられる米和平案にパレスチナ自治政府のアッバス議長は消極的だ。アッバス氏の協力がないまま和平プロセスを進めれば、サウジの行動は、「パレスチナ問題でアラブ、イスラムを裏切ったと映る」とその危険性を訴えている。

(本田隆文)