改憲派は死滅、改悪派だけ残る

小山 常実大月短期大学名誉教授 小山 常実

9条2項削除言う党皆無
永久属国化→滅亡路線の選択

 10月22日、衆議院議員選挙が行われた。自民党が圧勝したため、安倍政権が継続することになり、当面の北朝鮮危機を乗り切るには一番よい状態が出来上がった。しかし、憲法改正をめぐる状況を考えると、お先真っ暗である。

 マスコミは、自民党圧勝を受けて、改憲派が3分の2を超えた、いや4分の3に達すると報道している。例えば、10月23日付の読売新聞朝刊は、「各党が憲法改正項目として挙げているテーマ」と題して、各党の憲法改正問題に対する態度を整理している。

 これによれば、《自衛隊の明記》を掲げるのは自民と維新、《教育無償化》が自民、維新、希望、《地方自治の強化》が希望、維新、公明、《知る権利の明記》が希望と立憲民主、等々となっている。この整理によれば、第9条第2項削除を唱える政党は皆無である。

 ということはどういうことか。どの党が主導した改憲案であっても、その改憲案が成立すれば、第9条第2項を日本国民自らが正式に受け入れたことになり、正式に自衛戦力を否定し、交戦権を否定したことになるのである。

 従って、いざ国家存亡の危機に当たっても、自衛隊が国家を守ることはできないので、日本国はいずれかの大国に守ってもらい、その属国になるしかなくなるのである。すなわち、今度「日本国憲法」が改正されれば、それは正式の属国化宣言、永久属国化宣言となるのである。

 しかし、かつては、第9条第2項削除は、改憲派にとって一丁目一番地であった。改憲とは日本の独立のために行うものであり、第9条第2項を削除しなければ日本の独立はあり得ないという常識があったからである。この本来の定義からすれば、もはや、日本の政界では改憲派は死滅したと言える。残ったのは改悪派だけである。

 安倍政権の描くスケジュールによれば、2020年に改正「日本国憲法」を施行し、21年に安倍首相が退陣する。筆者は、安倍退陣後の22年頃が、中国による日本侵略が行われる危険性が高いと恐れている。

 まだしも、「日本国憲法」を改正していなければ、度胸があり弁舌の達者な首相であれば、米国に押し付けられた「憲法」など無視してしまえという発想で、交戦権を行使することもできるかもしれない。しかし、日本国民自身の意思で「日本国憲法」を改正したにもかかわらず第9条第2項が残っておれば、この規定に邪魔されて、全く戦うこともできず、屈服するしかなくなるだろう。

 22年秋は、「中華民族の夢」を語り、世界の覇権を握ろうと唱える習近平総書記の2期目が終わる。今回の中国共産党大会は、習総書記の後継者を定めなかったから、習総書記が3期目も続投する可能性が高い。続投を確かなものにするために、習総書記が台湾侵略または日本侵略を行う可能性は十分にあると言える。

 中国の動向がどうであれ、このまま第9条第2項護持が行われ、米国が東アジアから手を少しずつ引いていけば、端的に言えば米国が安保条約を更新しないと日本に通告すれば、1年後には日米同盟は終了し(日米安保条約第10条)、日本は国防に関して法的に丸裸状態となる。

 中国やロシアからすれば、金持ち日本というおいしい獲物が全く無防備で目の前に置かれることになる。その時、一挙に滅亡へと進む可能性が高まることになろう。すなわち、このまま「日本国憲法」改正へ突き進めば、どの党が主導しようとも、永久属国化→滅亡路線の選択となるのである。

 しかし、それにしても、なぜ第9条第2項を護持する憲法改悪派しか残らなくなったのか。直接的には、十分に自衛戦力否定の意味、交戦権否認の意味について研究されてこなかったからである。これらの問題については、10月に公刊した『自衛戦力と交戦権を肯定せよ』(自由社ブックレット)の中で論じたので、参考にされたい。

 拙著を著す中で、強く思ったことがある。本当に、戦後日本の憲法学は国際法と国家論を無視しているな、特殊過ぎるな、ということだ。まさしく、ガラパゴス化しているのだ。国際法および国家論は、国家の主権を認めているし、その主権を保障するために、戦力を持つ権利も交戦権も認めている。

 にもかかわらず、ガラパゴス化した戦後「憲法学」の大多数は、わざわざ国際法および国家論を無視し、自衛戦力も交戦権も認めない「日本国憲法」解釈を行ってきた。改悪派の背景には、ガラパゴス「憲法学」が存在するのである。

 ガラパゴス化一般が悪いわけではないが、軍事関係のことは戦時国際法にのっとって、国際標準に合わせなければ始まらない。国際法と国家論の立場から第9条問題を処理することが求められていると言えよう。

(こやま・つねみ)