日本共産党の綱領を糺す 「天皇制」打倒が根幹に

NPO法人修学院院長・アジア太平洋交流学会会長 久保田 信之

久保田 信之

偏った歴史認識で観念的闘い

 安倍首相は「民進党と共産党がこんなにずぶずぶの関係となった選挙は初めてだ。民進党はどうかしている」とまで先の都議会議員選挙を評して公言したことがあった。他党のことをここまではっきりと批判することは珍しいが、こともあろうに基本的な政治理念も社会理念、イデオロギーも大きく違う日本共産党と、たとえ「一時の選挙協力」だとしても、提携・協力関係に入ったことは「民進党はどうかしている」と感じても不思議はない。

 かつては国民に信任を受けて政権の座に就いたこともあり、曲がりなりにも、現在でも最大野党としての地位にある民進党が、党勢の衰弱を救う有効な手段としたのが、「安倍一強体制の打破」をうたい文句にした共産党の誘いだった。具体的には「安倍政権を打倒し、新しい政治を切り開くために、野党と市民の共闘をさらに前進させる」とした共産党の積年の運動方針に、民進党は「賛同する、同調する」との結論に至り、党の統一見解として確立したのであろうか。

 そもそも、民進党の諸君は、日本共産党の基本理念である発言や行動の根幹を吟味すらしないで、「選挙協力、選挙の区割り」をしてきたのではないか。民進党が盛んに批判してきた単なる「数合わせの野合感覚」で、日本共産党との協力関係、提携関係に踏み切ったのではなかったか。選挙であれ、諸政策であれ、共産党との協力・協調を組むことは、共産党が主導する「統一戦線政策」に賛同した証しとなることを覚悟していたのであろうか。

 長年愛した民進党を離党するとの苦渋の選択をした細野豪志、長島昭久、その他諸氏は、共産党の基本理念を知り、彼らが進める「社会主義への道」を憂慮したからに他ならない。

 健全な野党不在の現在、改めて日本共産党の基本理念を厳密に検討してみる必要を痛感した。日本社会の健全化のためにこそ「日本共産党『綱領』」を熟読することを薦めたい。

 そもそも、日本共産党は、1922年7月15日に非合法な状態で共産主義インターナショナル日本支部として創立され現在に至っているという独特の歴史を持つ政治結社である。

 いわゆる32年テーゼに源を置く共産党の綱領では、日本の近現代史を「国を統治する全権限を天皇が握る専制政治(絶対主義的天皇制)がしかれ、国民から権利と自由を奪うとともに、農村では重い小作料で耕作農民をしめつける半封建的な地主制度が支配し、独占資本主義も労働者の無権利と過酷な搾取を特徴と」すると規定。「この体制のもと、日本は、アジアで唯一の帝国主義国として、アジア諸国にたいする侵略と戦争の道を進んでいた」として、日本の歴史から「暗黒部分」を抽出。その上で「党は、この状況を打破して、まず平和で民主的な日本をつくりあげる民主主義革命を実現することを当面の任務とし、ついで社会主義革命に進むと言う方針のもとに活動した」と自己評価しているのである。

 この前提に立って、結党以来取り組んできた「課題」を克明に解説している。これら全てをここに紹介する紙面はないが、まずは「たたかってきた」と力説する課題、対象、実績を紹介し、読者諸氏の率直な検討を期待したい。

 まず、全ての課題の根幹として、第一に掲げている「たたかい」は「天皇制の専制支配を倒し、主権在民、国民の自由と人権を勝ち取るため」のたたかいだという。確かに共産党結党の当初から「国を統治する全権限を天皇が握る専制政治(絶対主義的天皇制)がしかれ」云々(うんぬん)と規定し、第二のたたかいである「半封建的な地主制度をなくし、土地を農民に解放するため」のたたかいの根拠をもこの「天皇制」に置いていることが共産党の特色なのである。それゆえ、第三のたたかいと称する「過酷な搾取によって苦しめられていた労働者階級の生活の根本的な改善、すべての労働者、知識人、女性、青年の権利と生活の向上のため」のたたかいの根拠も、「天皇の専制政治」から起因するのだとし、「たたかい」の対象と位置付けているのである。

 さらに第四では「ロシア革命と中国革命にたいする日本帝国主義の干渉戦争、中国にたいする侵略戦争に反対し、世界とアジアの平和のため」のたたかいを挙げ、第五では「日本帝国主義の植民地であった朝鮮、台湾の解放と、アジアの植民地・半植民地諸民族の完全独立を支持」するためのたたかいをなし続けてきたとして、70年たっても日本人を苦しめている「中国・韓国の偏った歴史認識」を肯定し、高らかにうたい上げているのである。

 現在の課題においても、日本の大企業・財界は、アメリカ独占資本主義に従属する、アメリカの代弁者であり、日本の自衛隊も事実上アメリカ軍の掌握下にありアメリカの世界戦略の一翼を担わされている、として、国土や軍事などの重要な部分はアメリカに握られている「事実上の従属国」である、と日本の現状を言い放っている。

 いずれも、自分たちが担い創り上げている「祖国日本」を「日本人の立場」で評価し肯定しようとはしない「観念的なたたかい」を日本共産党はなし続けていると言えるのであるまいか。

(くぼた・のぶゆき)