4年連続100兆円超予算で財務省に「水膨れ」と厳しい査定求めた各紙

◆借金大国は事実誤認

 各省庁からの2018年度予算概算要求が8月末に締め切られた。一般会計の総額は100・9兆円程度で、4年連続で100兆円を突破した。

 以下に、各紙社説の論評として見出しを列挙するが、総じて厳しい内容が並んだ。8月31日付東京「まだ青天井続けるのか」、9月1日付読売「『人づくり』の中身が問われる」、日経「水膨れ予算に諮問会議は歯止めかけよ」、毎日「危機感の欠如にあきれる」、3日付朝日「『歳出改革』やれるのか」、産経「歳出改革の手を緩めるな」――。

 東京が言う「青天井」とは、「安倍政権特有の歳出上限を設けない」手法を指す。同紙も記すように、最近の概算要求は各省庁の予算で裁量的経費の要求を前年度比10%減とすることで計1・5兆円程度削減し、これとは別に政権の目玉政策の推進に「特別枠」(約4兆円)を設けている。

 これにより、東京は「逆に予算規模は膨らむ」として「青天井」と批判するが、誇張が過ぎよう。同紙は、「概算要求はシーリング(天井)を設けて歳出を抑え込むのがあるべき姿だ」と強調するが、シーリングが予算の硬直化、メリハリのなさを招いた反省の上に現在の手法であることを同紙は忘れている。

 また、同紙は「世界一の借金大国にして最も少子高齢化が深刻な国がこれでいいはずはない」として、社会保障や公共事業の無駄を省き、膨張する防衛予算も徹底的に絞り込むべきだと訴えるが、大きな事実誤認がある。日本は世界一の借金大国ではなく、世界一の純債権国いわゆる金持ち国である。正確には政府の財政事情が先進国の中で最も厳しいということである。

◆消費税増税で税収減

 さらに、社会保障費はそうとしても、公共事業や防衛費については老朽したインフラの再整備や災害対策、北朝鮮の核ミサイル問題、中国の軍備増強といった最近の社会状況、緊迫化する東アジア情勢を、全く無視している。

 「危機感の欠如…」と最も厳しい論調を示したのは毎日。「1000兆円を超す借金漬けの状態なのに、税収の倍近い予算要求を続けている」からと言うわけである。

 安倍政権は経済成長を通じた税収増に頼ってきたが、昨年度の税収は7年ぶりに減少し、赤字国債の追加発行を余儀なくされた。「それだけに歳出抑制の重要性が増している」にもかかわらず、「今回目立ったのは看板政策にかこつけるなど従来通り拡大を求める動きばかりだ」と批判の理由は尽きない。

 だが、忘れてならないのは、現在の1000兆円を超す借金を招く主因となったのは、毎日などが主張し、その後の低成長と税収減、赤字国債の大量発行の継続につながった、1997年度の消費税増税、財政緊縮策だったことである。

 だからこそ、安倍政権は成長を重視した政策を実行し、現実に7年の間、税収増を実現し、赤字国債の発行を減らしてきたのである。昨年度は前半の円高もあって7年ぶりの減少となったが、政策としては間違っていないということである。

◆成長重視の視点重要

 財政健全化には、各紙が主張するように、歳出削減が確かに重要で、社会保障や医療制度の改革は持続可能な制度構築へ不断の努力が欠かせない。読売が指摘するように、2年に1度の診療報酬改定と3年に1度の介護報酬改定が6年ぶりに重なる今年は、持続可能な制度に向けて「高コスト構造を改める大きなチャンス」(同紙)である。

 ただ、過度の歳出削減は経済成長に悪影響を与えるだけに、大きければいいというわけでもない。成長と財政健全化を同時並行的に追うことの難しさがあるわけである。

 産経は「景気が回復傾向を強めている今は、大胆な改革を講じやすい環境にある」として、再来年10月に予定される「消費税率10%の引き上げの前提にもなる」「徹底した歳出改革」を求めた。先の4~6月期4%成長(速報値)を念頭に置いての指摘だが、改定値では下方修正されるとの見方が多く、必ずしも回復傾向を強めていると言い切れるか定かでないのである。

 厳しい財政事情の中、「財務省は費用対効果に乏しい要求をはねつけ、厳しく査定しなければならない」(日経)のは確かだが、成長重視の視点も引き続き重要である。

(床井明男)