米韓軍事演習利用した北朝鮮

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

ミサイル発射を正当化
国際的非難よそに実験強行

 恒例の米韓軍事演習が8月21日開始され31日終了したがこれをめぐる米・韓・朝それぞれの対応が衆目を集めた。米国は太平洋軍司令官、戦略軍司令官が、日韓両国を訪問、現地米軍を激励、北朝鮮のグアム島近傍への中距離弾道ミサイル(IRBM)発射計画の公表、応ずるトランプ大統領の激しい恫喝(どうかつ)、そして北朝鮮の北太平洋へのIRBM発射等双方がせめぎ合う緊張感の漂う演習となったが、関連して私見を披露したい。

 まず米韓軍事演習であるが、およそ軍事組織にとって、演習は平時の最も肝要な活動であり、その実施を非難するのは、軍事的に常識外れと言わざるを得ない。軍の運営は、起こり得る危機・紛争を予測し、これに対応する作戦計画を整備する。そしてこの計画に基づいて組織を錬成することにある。軍の精強性は、装備・隊員資質も重要な要素であるが、組織をいかに訓練し、演習を通じて総合的な即応体制を保っていくかがキーである。そしてこの精強性、即応性が、国民の負託と言って良いのである。

 このような軍にとって不可欠な演習を非難し、挑発的行動に及ぶ北朝鮮の魂胆は種々考えられる。自国民・軍の引き締め、韓国内親北勢力への間接支援等はもちろんであるが、ここ数年、最も注目されるべきは、弾道弾開発に必要な発射試験を、国際的非難の中、演習に対抗する形で便乗・強行していることであろう。読者ご承知のように、北朝鮮の核・ミサイル開発への意欲はすさまじい。IRBM級の能力を持ち始めたことは列国が認めるところであるが、懸案の大陸間弾道ミサイル(ICBM)保持にはまだまだ距離があり、何回も試験発射を行う必要がある。国連決議・制裁強化といった諸制約が課せられる中、実験を正当化するため米韓軍事演習への反発と言った形を取るのが、「都合が良い」と考えているのであろう。

 北朝鮮のロケット開発の現状は、国営テレビによる一方的な宣伝的報道により、その進歩が喧伝(けんでん)されているが、半面種々の問題点も明らかになりつつある。本年3月公表した「新型ロケットエンジン」はその特異な補器の映像から旧ソ連時代の主力ICBMであったSS18のエンジンRD250系であることが判明している。SS18は、旧ソ連の崩壊もあり、廃棄・退役が続くが一部はロシアの現役戦力である。液体燃料であり、この世界では古い技術と言って差し支えない。北朝鮮の現状は1基の主エンジンに4基の補助推進ロケットを併用する方式で射程6000キロ程度を得ているものと見られる。最近の発射は「ロフテッド軌道」と言われ、最大高度まで打ち上げる方式で、高度3000キロまで達成しており、通常弾道に換算すれば単純計算で「高度×2」の6000キロで符丁が合う。この射程の延伸が北朝鮮にとって目前の課題であろう。

 弾頭強度をはじめとする再突入技術も大きな問題を抱えている。先日奥尻沖へ夜間打ち上げられた「火星12号」の着弾時の状況が、NHK望遠レンズに捉えられ、全国に放映された。映像は明らかに再突入時の高温に耐えられず、燃焼炎上しつつ落下するものであった。おそらく北朝鮮としては、再突入速度の低い通常弾道でのリエントリー技術を確認する必要があるのであろう。

 固体燃料ロケットについては、北極星1号2号の打ち上げが行われており、2号は2000キロ程度の能力と、車載機動運用の能力を持つと推察されている。北極星1号は水中発射に成功したとされており、潜水艦搭載が試みられているようである。

 このように、戦略核保有を目指し、その地位を国際的に認めさせたい北朝鮮にとって、国際的非難、制裁の強まる中、各種の試験を強行していくことは重要な課題であり、米韓合同演習への反発を口実にすることは容易に推察できるところである。先日金正恩が、固体燃料研究所なる施設を視察している画像が国営テレビにより放映された。燃料タンクらしいファイバー製の容器の他はこれといった展示物は無く、それとなく判読できるように火星13号、固体燃料3段ロケット図面を掲示する等宣伝臭の強い画像であると見た。これら北朝鮮の宣伝戦、対する米国の反応、国連決議に反し技術流出・製品流出が疑われているロシア・ウクライナの駆け引き等を冷静に見ながら、北朝鮮制裁を強めていくことが肝要なのであろう。

 わが国では、ミサイルディフェンスに関する新しい動きが出ている。来年度予算にイージス艦搭載の「SM3」迎撃ミサイルの陸上設置型である「イージスアショア」システムが盛り込まれる動きが報道されている。本システムは、イランのIRBMに対応するため北大西洋条約機構(NATO)諸国合意の下に欧州南東部に建設が進められており、これに次ぐものとなる予定である。一時は中国の横やりで懸念された在韓米軍の迎撃ミサイル「THAAD」の配備も進んでいるようである。これらの努力は、国際的な世論に逆らって核武装を進める北朝鮮にとって、越えなければならないバリアーを高くし、核開発が高価でペイしないものであるという現実を思い知らせる意味から極めて重要である。米韓演習も無事終了したが、北朝鮮の動向に一層の注目が必要である。

(すぎやま・しげる)