首脳会談で増す日本の役割

「世界益」にも貢献しよう

 一体、世界はどうなるか。各国の民主主義や自由度を調査している米NGO「フリーダムハウス」が先日公表した、「世界の自由」2017年版(16年の状況の評価)報告のとても悲観的な内容を読み、改めて心配になった。

 同NGOは45年前から、客観的と言える年次報告をまとめている。今回は204の国・地域を調査し、前年より後退した国・地域が67、前進したのが36。16年版では、後退72、前進 43だった。11年連続で後退が前進を上回り、特にこの2年、後退が激しい。

 報告は「過去4半世紀間、民主主義、人権、法の支配の上に根を下ろしてきた国際秩序が、個々の指導者や国家が自己の狭隘(きょうあい)な権益を追求する世界へと、変わる危険が増している」と警鐘を鳴らしている。

 そして、①新現象として、米、仏、スペイン、デンマーク、ブラジル、韓国をはじめ、「自由な国々」での後退が目立つ。

 ②ロシア、中国は、ネットや人権活動家などへの監視・弾圧とともに、自らが狙う方向へ世界を変える努力を一段と強めた。ロシアでは、議会からリベラルな野党が姿を消し、米大統領選やイタリアの国民投票などに影響を及ぼす作戦が実行された。

 ③中欧のポーランド、ハンガリー、チェコなど、専制主義国から自由な国へ大変化した国々が、今「非自由民主主義」へ逆行している。

 ④最悪はシリアで、100点満点のマイナス1点。ロシア、イランなどの強力支援を受けたアサド政権が、無差別爆撃や重大な残虐行為で、テロ集団IS「イスラム国」より市民の犠牲をふやしつつ、内戦の主導権を奪回した――などと指摘している。

 トランプ米大統領の辞書には、民主主義や自由などの単語がないようだ。IS退治のためプーチン・ロシア大統領―アサド連合とも協力したいらしい。欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)、国連などの集団協力には厳しい目を向ける。

 中国は最近も、スリランカで50億ドルの新投資地区オープン、フィリピンへの37億ドル経済協力発表、タイへの潜水艦売却決定など、金力で周辺固めを続ける。

 今週、王毅外相がオーストラリアを訪問、豪側からTPP(環太平洋経済連携協定)への参加を検討するよう要請もされた。

 「世界の自由」報告と前後して、米核専門誌「原子力科学者会報」の科学者たちが、人類滅亡の何分前かを予想する「世界終末時計」を発表した。今年は、昨年の3分前からまた進んで2分30秒前。その理由の中で、トランプ、プーチン両氏の名が言及された。

 欧州諸国は、難民・移民流入やテロ問題で世論が分裂し、自由度を下げ、米露への影響力も低下気味だ。だから日本の役割が重要になる。安倍首相は、10日にトランプ大統領と会談し、日露首脳会談も今年の早い時期に予定している。日米首脳初会談では、日米同盟、経済関係、自由貿易などが当然中心テーマだが、今後、徐々にでもトランプ氏が日米共有の普遍的価値や国際協力に関心を増すよう、働き掛けてほしい。

 もちろん難しいこともある。トランプ氏の難民・移民受け入れ停止の大統領令署名に、安倍首相はコメントを避け、野党や左派メディアから批判された。難民受け入れ数が2桁台前半の日本が、どうコメントできるか。野党も日ごろ難民受入れへの関心などろくに示していないのだ。

 それでも、日本が言えること、言うべきことはいっぱいある。

 ロシアや中国には、国際法秩序順守を強く求め続けること。「日本第一」だけでなく、「世界益」に貢献したい。

(元嘉悦大学教授)