内容ある国会論戦を期待

細川 珠生政治ジャーナリスト 細川 珠生

TPPの意義を明確に

憲法改正、二重国籍問題も

 連日報道される“小池劇場”に、すっかり話題を持っていかれたかのような安倍政権であるが、26日に始まった第192臨時国会では、重要テーマもあり、国民は大いに関心を持つべきである。

 重要テーマは、私は三つあると考えている。一つは、環太平洋連携協定(TPP)の承認と関連法案の成立である。TPPは昨年10月、約2年の交渉の末、参加12カ国で大筋合意し、今年2月4日にニュージーランドで署名式が行われた。経済活動に関わるルールは21分野にのぼり、また関税について、日本は9018品目のうち95%が撤廃されることになった。この合意に基づき、国内法の整備を行っていくということになるのだが、早速この点について、野党第1党の民進党は、当事国の一つであるアメリカの次期大統領候補たちもTPPには慎重姿勢を見せていることを挙げながら、反対しており、徹底攻勢の構えである。TPPについて、国民も内容をしっかり把握できている人はほとんどいない。そうなると、国民の認識度が決して高くはない状態のまま、国会での審議を「強引」に進めていくと、昨年の安保法制と同様、印象論だけで世論を誘導することになりかねない。国会論戦において、TPPの意味や早期発効の利点など、国民に明らかにしてもらいたい。農業など、経済的に影響があるのなら、それを補償してもらうだけでなく、当事者の人たちが自らの手でピンチをチャンスに変える努力も大いに必要だ。

 重要なテーマの二つ目は、5年ぶりとなる国会での憲法審査会の議論である。衆参両院で初めて、改憲勢力の議席数が3分の2を超え、憲法改正に必要な発議を行う環境はできたことから、安倍総理も積極的に憲法の議論の必要性を発言するようになった。26日に行われた所信表明演説では、憲法改正を決めるのは国民だが、その案を提示するのは国会議員の責任だと明言。自民党の憲法改正草案を撤回しなければ議論はしない、また安倍総理の下では憲法の議論をしないという野党の姿勢を批判した。日本を取り巻く国際社会の情勢は大きく変わり、現憲法では国民の命を守り切れないと考えれば、憲法の議論をしないことは、国会議員の責任放棄である。野党は、自民党の憲法草案が問題だというのなら、審査会でその点を大いに議論すべきであり、議論をしないという姿勢は非常に問題である。

 三つ目の重要テーマは、蓮舫民進党代表の二重国籍問題である。代表選の最中に出てきた問題であるが、二重国籍に関する自身の認識の甘さは大問題である。二重国籍であったという事実と、発言が二転、三転した対応の悪さの問題という二つが、今も蓮舫氏に降りかかっており、今後、国会で与党の方から追及されることは間違いない。国籍法にのっとって考えれば、二重国籍は違法であり、違法状態で大臣を務めていたということは、蓮舫氏の二重国籍を一度も疑わなかったということになる民進党の責任も大いに問われることになるだろう。今後、このような問題が起こらないためにも、日本維新の会は、二重国籍を禁ずる公職選挙法改正案を参議院に提出した。国会で真剣に議論してもらいたい。

 これらの重要テーマを抱え、11月には同盟国・アメリカの新大統領が決まる。在日米軍、TPPの問題で新しい大統領の考えがどのようなものであるかにより、日本に全く影響がないとは言い切れないだろう。12月に来日するロシアのプーチン大統領との北方領土の返還交渉も進展が見られるか、注目される。今年に入って21発のミサイルを発射、2回の核実験など軍備を増強し誇示する北朝鮮の動向など、日本を取り巻く国際情勢は、相変わらず不穏な動きがある。

7月の東京都知事選で291万票という圧倒的な支持によって新しく知事に選ばれた小池百合子氏は、徹底して都政の闇を調べ、まっとうな都政が行われるよう、奮闘中だ。そんな小池氏に対して、自民党は知事選で公認を与えなかったが、これはまさに「世論」という空気が読めない証拠でもあった。

東京オリンピック・パラリンピックを4年後に控え、すでに国立競技場の建設やエンブレムの選考で失態があったが、今後は主催都市・東京と国がこれまで以上に強い信頼関係を持って準備を進めていかなければならない。都知事選の対立構造をこれからも持ち続けていることは有益ではなく、むしろ日本が抱えるあらゆることについて、大局的な見地からの判断が必要である。

 さて、予定では66日間の会期である臨時国会の後には、解散総選挙があるかどうかが注目されている。憲法改正のスケジュールや、野党の状況を見ると、解散総選挙は遅くとも来年1月、つまり通常国会冒頭解散の可能性は高い。そう考えると、私たち国民も、内政、外政ともに、しっかりと関心をもってその動向を注視していかなければならないのである。

(ほそかわ・たまお)