真剣な憲法論議の再開を
「18歳選挙権」は奏功
改憲発議可能にした参院選
国政選挙で4連勝という強さを見せた安倍政権。第24回参院選も終わってみれば、ほとんど「儀式」のような選挙だった。選挙が終わり、早々に夏休みに入った安倍総理の日程を見ても、党内の混乱もないのは明白であり、じっくりと人事構想を練る時間も与えられた。自民党が推薦する候補者がまだ都知事選のさなかにあっても、余裕の様相である。
そもそも、参院選公示から3日で、「改憲勢力3分の2獲得に迫る」などと報道され、東京都知事選ばかりが大きく取り上げられる毎日の中で、参院選への関心は総じて低かった。かろうじて話題にのぼったことといえば待機児童問題くらいのことであっただろうか。それも東京都知事選と重なるテーマであり、国政選挙である参院選としては、やはり盛り上がりに欠けたのである。とはいえ、投票率は前回より微増の54・7%であるが、これは「18歳選挙権」が多少は功を奏した結果であったのではないかと考える。私自身は、関心の低い今回の参院選で、二つのことに注目していた。
一つは、10代の投票率がどれくらいになるかということである。10代が選挙権を得て初めての国政選挙、それも70年ぶりの選挙権年齢の変更であり、この点については広く関心を持たれていたのではないだろうか。高校では「主権者教育」が行われるようになったが、18歳、19歳の政治への関心を高め、投票行動に結びつけるには、学校教育だけでは難しい。18歳、19歳の子供が懸命に政治を勉強しているのに、その横で、親が無関心な振る舞いをすれば、子供たちの努力や意欲もそがれることになる。
10代の子供たちが選挙権を得たことで、親世代も真剣に政治を考えるようになることが、主権者教育のねらいとしても重要である。肝心の10代の投票率は、45・45%であった。これを低いという人もいるが、特に18歳は全国平均で51・17%、場所によっては6割を超えるところもあり、決して十分ではないと思われる「主権者教育」の中で、よく努力をしたと思う。投票率が50%台であれば、これまでの選挙での20代、30代の投票率より高い。これから、より充実した主権者教育が行われることで、10代を「リード」してもらいながら選挙への関心が高まっていくことを期待したい。
二つ目は、野党が統一候補を立てた共闘にどのような評価が下されるかということである。これには一定程度の効果があったと考えるべきであろう。3年前の前回の参院選では、31の1人区の与野党の勝敗は、与党29勝、野党2勝であった。しかし今回は、1人区も1区増え32になったが、与党21勝、野党11勝という結果になった。3年前の参院選は、その半年前に第二次安倍内閣が発足。アベノミクスの効果が円安・株高という形で表れ、安倍政権に勢いがあったときだ。総獲得議席も65と、今回より9議席多い。当時の獲得票数から計算すると、野党共闘では、与野党逆転、もしくは接戦の選挙区が10あると言われてきたので、ほぼ予測通りの結果となったと言っていいだろう。
一方、今でも公安委員会の監視対象団体である共産党と共闘することへの拒否反応も少なくなく、野党各党は、次期衆院選も共闘の意向を固めたようだが、今回のようにそれなりの効果が見込めるかは不明だ。共産党の政策を棚上げするなどの政策協議を行うなどして、共闘することも考えられる。いずれにしても、自公を中心とした与党と、共闘する野党という対立構図は、東京都知事選でも継続され(ただし与党は分裂)、一定の成果があったと考えているのは明らかだ。
結果として、今回の結果を受け、衆参両院で初めて、日本国憲法の改正に必要な発議ができる3分の2の議席を、改憲を望む勢力で占めることになった。世界の憲法の中でも、日本の憲法は改正のための条件がとても厳しい。両院総数の3分の2の国会議員の賛成を得て、国民投票を行うことが、改憲の条件である。改正案に制限なく、国民投票を課しているのは、世界約200カ国の憲法の中で、日本を入れても4カ国しかない。日本の憲法が平和憲法で世界の中でも類をみない素晴らしいものであるから、改正せずに来たのではなく、改正のための要件が厳しすぎることも大きな一因である。しかし、その厳しすぎる要件をクリアして、改憲の発議が可能な国会の態勢ができた。
実際には、これから改憲の議論が始まる。まずは休眠状態の国会の憲法審査会での議論を再開し、改正の条文を具体的に議論していく中で、国民は国会での審議に関心を持ち続け、国民投票に備えなければならない。安倍総理は「自分の任期中には(改憲を)」という意思を持っている。衆議院議員としてより先に、自民党総裁としての任期が2018年9月に来る。総裁任期を延ばす、あるいは今は党則で禁止されている3期以上を認めるなど、安倍政権続投への意志が色々あるようだが、国会で、また国民が議論するのもあと2年ということだ。
英国民がEUをよく理解しないまま離脱を決めてしまったようなことにならないよう、国民はこの期間に、懸命に憲法について学んでほしいと思う。それが安倍政権の続投、そして改憲議席3分の2超の議席を選んだ国民としての責任である。
(ほそかわ・たまお)