安倍長期政権を占う3カ月
景気回復と憲法改正を
日本の進路考え参院選に臨め
はや3回目の国政選挙となる参院選挙が3カ月後に迫っている。“3回目の”というのは、安倍政権発足後、国政選挙が3回目であるということだ。
加えて、前回からまだ1年半しか経過していないが、衆院選も今夏の参院選と同日、もしくは遅くとも年内には行われるだろうと予測されている。内閣は選挙のたびに強くなり、改造のたびに弱くなるという、安倍総理の大叔父・佐藤栄作元総理の言葉があるようだが、安倍総理自身も、長期政権のために有効と思われる策であるならば、躊躇なく挑むという強い決意が私には感じられるのである。
では、何のための長期政権なのか。私は安倍政権が必ずや成し遂げたい、成し遂げなければならないと考えていることは、経済の回復と憲法改正であると思っている。経済の回復は国民の日常生活に直結することであり、憲法改正は、個々の国民の意識を超えた、日本という国としての在り方を定めるものである。どちらも、政権として、為政者として大きな責任を負う課題である。この二つを成し遂げ、定着させるためには、安倍政権はまだ時間が必要であるのだ。
安倍政権がこれまで最優先課題として取り組んできたのは、景気の回復であった。そのためのアベノミクス三本の矢を放ち、景気刺激策等を講じてきたが、残念ながら、国民の経済状況は劇的に回復するどころか、今も緩やかに下降しているという統計結果がある。総務省の「家庭調査報告」によれば、2015年11月の2人以上の世帯の、一世帯当たり消費支出は27万3268円であり、前年同月比実質2・9%減である。勤労世帯の実収入も、一世帯当たり42万5692円で、こちらも前年同月比実質1・8%減。前年というのは、消費税が8%に増税された2014年であり、消費の落ち込み具合は駆け込み需要分を差し引いても深刻であった。
その結果、2015年10月からの消費税再増税を延期したのが、2014年11月、つまり「前年同月」であるということだ。消費税の再増税延期が決まり、それまでの間に経済の足場固めをする、そのために消費が喚起されるようにすることが政権の至上命題であったが、再増税を決めてから1年経っても回復しないどころか、個々の国民生活は緩やかながらも悪化をしているのである。そのためにアベノミクス新三本の矢として、女性の活躍や、そのために課題となる育児や介護との両立を後押しする「一億総活躍プラン」等の政策が打ち出された。
そのための予算は、2016年度予算に組み込まれており、これらが実施されないことには、目に見えるような、また統計等で証明できる効果は生まれない。つまり、もう少し時間が必要であるのだ。もちろん、どうみても効果が期待できないような政策は、予算の無駄遣いにつながるため、改めなければならないが、もしここで政権交代が行われて、正反対の経済政策が取られるようなことになっても、またその結果が表れるのには数年かかってしまうということも、冷静に判断しなくてはならない。
このところ、「私の任期中には」と積極的な発言が聞かれるようになったのが、憲法改正である。改正反対派は、つまりは9条改正反対だ。9条の制約の中で日本の国防策を取るには、日米安保条約は欠かせない。しかし、そのアメリカは、今年大統領選を控えており、候補の1人として名乗りを上げるトランプ氏は、日米安保条約は不平等であり、アメリカに利するものはないというような認識を示す。トランプ氏にも認識を改めてもらいたい点はあるが、つまりは、他国に防衛を依存するというのは、絶対的な安全を保証されるものではないということだ。その当たり前の事実を突きつけられた日本は、憲法にその原因があることを自覚すれば、改正反対などという発想には至らないはずである。日本国民自らが、もっと自国の現状を学ぶべきではないだろうか。
憲法改正には、国会での発議と審議と採決、そして国民投票という手順を踏まなければならず、国民の憲法への無関心を考えると、まだ少し時間がかかると思われる。2018年9月の安倍自民党総裁の任期を考え、そこまでは(何としてでも)政権を維持しなくてはならないと、総理自身は考えているのではないかと、推測する。
私自身も、必ずしも安倍政権の政策に100%賛同しているのではなく、やや迷走しているように見える安倍政権の経済政策、特に「一億総活躍」という高すぎる理想に向け、非現実的な政策を打ち出している点については、大きな疑問を感じている。「三世代同居」のための住宅建築の補助なども、蓋を開けてみれば三世代同居を要件としてないなど、あらっぽさも目立つ。しかし、国民としては選択肢がないことも事実だ。野党結集というのならば、どのような政策ができるのかきちんと示して欲しいのである。
また、「戦争法案廃止」と言うのならば、その代わり、どのような体制をとれば日本国民を北朝鮮や中国の軍事的懸念から守ることができるのか示すべきである。それができなければ、安倍総理が目指す景気回復と憲法改正のための長期政権を止めることはできないだろう。国民も、自分たちの国である日本をしっかり理解して、参院選までの3カ月を過ごさなくてはならない。
(ほそかわ・たまお)