国際司法裁判所 自衛の極限下で「核」も排除せず
詳解 集団的自衛権 安保法制案の合憲性(4)
日本大学名誉教授 小林宏晨

自衛行為としての戦争は、武力攻撃への対応における対抗措置の包括的適用である。ある状況下において自衛権が戦争に訴える権利であることは疑いがない。換言するなら自衛の強制行為が戦争という結果となり得るのだ。
個別的武力行使に続いて戦争が開始される場合、必要性が議論の対象となる。
自衛する国家は、全面的敵対行為を開始する前に、紛争の合理的解決への到達が友好的方法で可能であるかについての確認義務を有する。
次いで、比例適合性(攻撃国の軍事力の規模、態様に比例した対抗措置)は、自衛戦争の構造において特別の意味を持つ。一度戦争状態が発生すれば、戦争前の比例適合性の条件にもかかわらず、自衛力の行使は、敵軍のせん滅を目指す。つまり戦争状態では、戦争に至るまでの比例適合性の原則が外される。
核兵器の使用もそれに当てはまる。1996年の「核兵器の威嚇あるいは使用の合法性」に関する(11対3の)勧告意見の中で国際司法裁判所は、以下のように述べた。
「慣習国際法においても条約国際法においても、核兵器それ自体の威嚇と使用の包括的かつ一般的禁止は存在しない。」
さらに国際司法裁判所は、核兵器の使用が、一般国際人道法、とりわけ二つの主要原理、戦闘員(または軍事目標)及び非戦闘員(または民間目標)の区別、ならびに戦闘員に対する不必要な苦しみの禁止に照らして、違法であるか否かの問題と取り組んだ。
核兵器のユニークな性格に鑑みて、裁判所は、この使用がこのような要求の尊重との一致は極めて困難であると考える。それにもかかわらず裁判所は、このような使用が「あらゆる状況下の軍事紛争における適用可能な諸原理や法の支配と必然的に相容れない」との結論付けを決定的に拒否した。
裁判所の多数(7対7+裁判長の賛成)は、「国家の存続がかかっている自衛の極限状況下において」核兵器に頼る可能性を否定しなかった。
さらに裁判所は、その存続がかかっている自衛国家が通常兵器のみに限定している侵略国家に対して核兵器に訴えることが出来ると結論付ける。換言するなら、その存続が脅威にさらされている自衛国家は、侵略者の兵器との比例不適合にもかかわらず、大量破壊兵器を使用できる。
裁判所は特別に以下の見解を採る。「比例適合原理は、それ自体あらゆる状況下における自衛において、核兵器の使用を排除するものではない。」当然、核兵器(及び他の兵器)の標的の選択は、一般国際人道法の規定と一致しなければならない。
結論として、戦争状態が発生すると共に、戦争状態に至る前の軍事攻撃とそれへの対応において適用された比例適合性の原理は外されることになる。