個別的自衛権 自国民救出は自衛措置として正当
詳解 集団的自衛権 安保法制案の合憲性(3)
日本大学名誉教授 小林宏晨

自衛権は、あくまでも武力攻撃を前提とする武力反撃の権利だ。武力攻撃は、国家によるものと国家によらないものに分類されるが、後者は、テロ集団のように、必ずしもその国家自身から発せられない。
武力攻撃には、戦争に至らないものと戦争そのものとに分けられる。これらへの対応としての自衛の形態は自ずと異なる。
戦争に至らない武力攻撃に対応する自衛の措置には、「限定的対応」(On-the-spotreaction)」、「防御的武力報復」(Defensive armed reprisals)、外国在住の自国民の保護がある。
相手国の限定的武力攻撃に対しては、自衛としての対応措置も限定的でなければならない。国家による自衛としての対応措置も、国連憲章第51条と慣習国際法によって規定される。国境周辺の小規模武力紛争ならびに国際海峡における艦船間の武力衝突等がその用例である。対応は、必要性や比例適合性、即時性との調和が求められている。
第2の、防御的武力報復。一般的に武力報復は、対象とされる国家の事前の違法行為がない場合には違法であるような対応措置を意味する。結局、武力報復は、戦争に至らない武力攻撃を前提とした限定的反応形態による自衛措置である。
第3の、外国在住の自国民保護については、その条件として、自国民傷害への急迫的脅威の存在、自国民を保護する領土主権者側の失敗あるいは不能、障害から自国民を護る目的に厳格に限定された保護措置―が挙げられる。
この3条件を充足した最も明白な用例は、1976年のエンテベ空港における救出作戦だった。この作戦はテロリストによってハイジャックされ、イディ・アミンの支配下のウガンダ政権の了承の下に、人質として留めおかれたフランス航空機内の主にイスラエル人の救出に成功した。
ユダヤ系米国人国際法学者ディンシュタインによれば、エンテべ空港襲撃には正当化に供せられる以下の特徴がある。
・ウガンダ政府は、人質の留め置きに直接関与したとみなされた。救出作戦は、関係国がテロリストと協力している場合、自衛行為として正当化される。
・人質たちは、その母国に対する政治行動の一部として捕えられた。人質への攻撃は、その所属政府への攻撃とみなされた。
・イスラエル国籍者たちは自発的にウガンダ(エンテベ空港)に行ったのではなく、その意思に反して、国際法(の対人主権)に違反して連れて行かれた。
・エンテベ急襲は、外科手術的軍事攻撃の典型であり、数カ月に及ぶ占領を伴った対グレナダ作戦と異なり、極めて短い救出作戦に終始した。
結論としてイスラエル軍によるエンテベ空港の救出作戦は、国連憲章第51条によるイスラエルの自衛の軍事対応措置と見なされる。