憲法改正待ったなしの時代

太田 正利評論家 太田 正利

国際社会の危機に対応

国防、緊急事態など明記を

 憲法改正については筆者も何回となく論じてきたところだが、最近になって多くのメディアも声を大にしてこの問題を論じている。5月3日、「民間憲法臨調、美しい日本の憲法をつくる国民の会」による第17回公開憲法フォーラムに筆者も代表委員の一人として出席した。

 そもそも、現行憲法は明治22年の大日本帝国憲法第73条の規程に基づき改正されたものとされているが、実態はそうではない。以前書いたと記憶しているが、この憲法は「マッカーサー憲法」と揶揄(やゆ)されるように、米占領軍が作成したのだが、一応旧憲法の改正という形を採っただけのことで、日本人を喜ばすように「新憲法」と言ったのだ。

 昨年、国民投票法が改正されたし、憲法改正原案を審議する衆参両議院の憲法審査会も再開された。内外の諸情勢がわが国をめぐって刻々と変化するなか、国家共同体としての日本国の再生や憲法改正が問われている。筆者を含む多くの国民が戦後70年も待望してきた憲法改正案の国会発議の機会が巡ってきたのだ。もはや待ったなし!

 長年の間、外交官として世界情勢を目のあたりにしてきた筆者がひしひしと感ずるのは、現在国際社会が直面している危機であって、そこには軍事力を背景とする現状変更への圧力がある。すなわち、「法の支配か、力の支配か」という問題である。すなわち、西欧全域に広がるイスラム過激派によるテロ事件、ロシアによるクリミア半島併合・ウクライナ紛争等に代表されるロシア帝国の復活、イスラム帝国の復活(「イスラム国」はシリア、イラクを中心に15箇国にわたる支持勢力を有する)を志向する動き。また、チベットやウイグルヘの弾圧のほか、小笠原周辺海域における漁場占拠、尖閣周辺海域での示威行動、さらに、フィリピン、ヴィエトナムとの間に国境紛争がある南シナ海における両国の抗議を無視して海域にある岩礁を占領して着々と軍事基地化を進めている中国の勢力だ。このように、国際社会はまさに力の支配に移行する恐れに直面している。かかる情勢の下、米、中、露の首脳は何を言っているのか。

 オバマ大統領は、2013年9月10日に「米国は世界の警察官ではないとの考えに同意する」…とし、習近平国家主席は12年11月に、中華民族の復活は中華民族の偉大な夢…「過去を振り返ると、立ち後れれば叩かれるのであり、発展してこそ自らを強くできることを銘記せよ。中華民族の偉大な復興の実現が、近代以降の中華民族の最も偉大な夢だと思う」と言い、プーチン大統領は14年3月に「クリミアでは私達の共通の歴史と誇りが息づく。ロシアはもう後に引けない限界に立たされた。歴史的ロシアの統一を復活せんとのロシアの欲求を認めよ」と述べている。

 かかる情況下、ローマのフランシスコ法王は、14年9月に「二つの世界大戦後の今日でさえ、地域紛争、大量虐殺その他の侵略者やテロリスト達の犯罪の中で行われていることを『第3次大戦』だと述べることができる」と指摘している。(日本がいう)「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持」(憲法前文)せんとしている平和を愛し公正と信義に満ちた国が世界の何処にあるのか。特に憲法9条の規定により、海外で日本人がテロ組織の人質になっても救出に行けず、ハイジャック機によるテロ攻撃の阻止もできず、原発施設が外部からのテロに狙われても対応できず、また、日本領の無人島に外国の武装勢力が上陸しても軍事排除できないなど、これで独立国の基本法かと考えこんでしまう。

 世界の国々は国民の平和と安全を守るため軍隊の保持を明記している。すなわち、他国からの侵略に対しては軍隊が自己防御することを規定しており、さらに、愛国心を大切にすることを明記し、有事においては国民が国を護るのを義務として定めている。筆者がかつて二度も在勤した永世中立国であるスイスも例外でない。その旺盛な国民の国防意識はまたの機会に。

 米、仏、独、伊、露等の主要先進国における安全保障に関する憲法規定には、いずれも軍隊の保持、自衛権の行使、愛国心・国防の重要性、国民の国防義務、軍最高指揮権限、国際協力活動への参加、非常事態における権限について明記している。日本はどうか? マッカーサー司令部たるGHQは、当初は「自衛のための戦争」すら放棄するよう指示している有様だった。

 そもそも、憲法改正は、国民的意識の改革無くして行い得ない。先ず、米国憲法、リンカーンのゲティスバーク演説、マッカーサーノート、テヘラン宣言、大西洋憲章、米独立宣言などの引用に満ちた継ぎ接ぎだらけの「前文」は「美しい日本の伝統文化の明記」に置き換えよ。「元首」は天皇陛下なることの明記、9条には平和条項とともに、自衛隊に軍隊としての法的根拠を与える。

 その他、世界的規模の環境問題に対応する規定、国家・社会の基礎たるべき家族保護の規定、大規模災害などの緊急事態対処の規定、憲法改正の条件緩和等が考えられる。かくして、日本国憲法は明日にむけて動きだすのだ。憲法改正を論ずるのは「右翼の象徴」だなどという考えは遠い夢物語になってしまったのだ。

(おおた・まさとし)