日本の将来かけた地方創生
他人任せで成長できず
創意工夫を生かす「交付金」
イスラム国による人質事件に国民の関心が高まる中、第189通常国会が開会した。今国会では優先議案としての予算案の審議から、後半国会での最重要法案ともいえる集団的自衛権関連法案の審議まで、重要な審議がいくつも行われる。すでに平成26年度補正予算案は明日にも成立の予定だが、約2年後に実施が決まっている消費税の10%への増税によって、国民生活が打撃をうけないためには、今年度の補正予算案と来年度予算案に含まれる国家の事業が、本当に実効性のあるものなのか、国民として注視しなければならない。メディアはそれを逐一報道し、国民は関心を持ち続ける責任がある。
安倍内閣は、年の瀬も押し迫った昨年12月27日に、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を閣議決定した。若者の雇用創出、東京圏から地方への転出増などを目指すものである。それに先立ち、昨秋の臨時国会では、内閣提出法案の議案第1号と2号として、「まち・ひと・しごと創生法案」と「地方再生法の一部を改正する法律案」を提出。解散・総選挙の急な決定と野党の審議拒否の中、この2法案の成立をもって、臨時国会は閉会した。明日にも成立予定の補正予算案3兆1180億円は、これらを基にした地方への経済対策を実行するための財源であると、麻生財務大臣も国会冒頭の財政演説で述べている。
現在の日本の経済状況は、2年前の第2次安倍政権発足と同時に始まった金融緩和や円高是正によるアベノミクスの勢いはなりを潜め、当初予定していた今秋の消費税増税もできないほど、悪い。増税や円安により物価が上昇したが、国民の所得や雇用はそれに見合うほど増えているわけではない。円安といえども貿易赤字は統計を取り始めてから過去最大となり、株価上昇による資産増加よりも、円安や消費税増税の影響の方が大きくなっているということだ。
経済回復の兆しを止めてはいけないとして、安倍首相は再度の消費税増税を延期し、アベノミクスの審判を問う選挙を行った。積極的か消極的かはともかくとして、議席の上では国民の支持を得た安倍政権は、なんとしてでも経済を完全に回復させないといけないのである。
そこで、これまでのアベノミクスでは回復できなかった個人消費と地方の経済の再生のためにとられているのが、一連の「地方創生」の施策である。同時に、短期的な経済対策の成果を求めるのみならず、これからの日本の成長分野として「地方を活用した」施策に重点を置いていくことが必要と考えられているということでもある。「地方創生」は、日本の将来がかかっている重要政策であるのだ。
元旦付の本紙「新春座談会」で、石破茂地方創生担当大臣は、「地方が総合戦略を策定するにあたって、一番やってはいけないのは、民間シンクタンクなどに策定を丸投げすること」と述べている。また政治評論家の長野(示へんに右)也(すけなり)氏も、「30年先の地域像をイメージできるのは、30年後に意思決定の責任世代になる20代の若者」と「発想の世代交代」がカギと指摘する。また本紙主筆の木下義昭氏は、「賢人会」のようなところで60、70歳以上の有名な人ばかりを集めてふるさとを議論するより、場合によっては高校生や中学生を入れて、若い人の意見をくみ取っていくことの重要性を説いている。
三氏の述べていることは、どれも地方創生の大前提にある重要な観点である。しかし残念ながら、当事者、つまり現在地方で意思決定を行う世代にある年配者が、このことをどれだけ自覚しているかは、非常に疑わしいのが現実である。
地方創生、さらに日本の成長戦略は、一人ひとりが「自分のこと」として考えられるのかにかかっているということだ。「地域経済を壊したのは国の政策だ。だから、国の財源で何とかしてくれ」と考えているだけでは、一向に再生などできない。あるいは、「市役所が何とかしてくれるだろう」、「県庁がやってくれるだろう」という他人任せでも何も解決しない。ましてや、「自分の世代は何とか大丈夫だから何もするつもりもない。そのあとは次の世代がその時考えればいい」という無責任な年配者の発想も許しがたい。それぞれの地域に生きる人たちが、世代を超え、一丸となって自分たちのまちの再生に、本気で取り組まなければならないのである。
1月14日に閣議決定された来年度予算案では、地方創生として3兆円の予算が組まれている。自治体が自由裁量で使える1兆円の他に、新規事業の創出などに7000億円を計上。その中身は、子育て世代の経済支援や地域公共交通確保維持のための事業など具体的な事業よりも、「地域再生基盤強化交付金」や「循環型社会形成推進交付金」など、「枠」の中で創意工夫が生かされる事業に多くの予算配分がなされている。これらの予算は、地方の再生と日本の成長につなげられなければ、無駄になる。年配者は、これまでの経験や知恵を生かし、若い人たちの発想がどのようにしたら実現できるのか、リードし助けていかなければならない。若者は、消極的にならず、自分たちの将来に真剣に向き合ってほしい。
(ほそかわ・たまお)