経済政策の課題残す衆院選
格差拡大に不満を映す
投票率低下と共産議席増に
第47回衆院選(14日投開票)では、予想通り自民と公明の与党が圧勝した。数字の上では確かにその通りだが、別の角度からの検証も欠かせない。まず、投票率が低かった。もちろん天候が地域によって悪かったことや投票所が遠くなった過疎地が増えたせいもあろう。だが、共産党が勢力を伸ばしたのに対して、民主党は勢力拡大の好機を生かせず党首落選の醜態をも演じた。その他の各党にも選挙前と同じで目につくほどの成果はなかった。
筆者の見るところ、選挙の最重要争点だった政府の日本経済再活性化策=アベノミクスは、決して順調に進んでいるのではない。それどころか、企業活動の分野でも国内総生産の約6割を占める個人消費の分野でも衆目の見る通り格差が拡大している。アベノミクスが順調に着々と成果を挙げているなどとは好意的立場に立ってみても到底いえない。有権者の一部が投票所に出向かず、共産党が勢力を伸ばし得たのは、アベノミクスに対する不信と不満の反映、中間に立つ民主党が好機を生かし得なかったのも、アベノミクスに取って代わる説得力のある日本経済再建策を有権者に訴え得なかったことが響いている、と筆者は見る。
言葉が過ぎるとの批判があり得ることを承知の上でいえば、経済運営の在り方についての安倍首相自身の理解程度も決して高くない。そう、筆者には映る。例を挙げる。
円の対ドル相場が漸落して1㌦対120円前後まで下げた当時、首相は「1㌦70円の時代に戻ってもいいのか」と自己弁護した。円安で輸出が伸びると確信してのことであろう。だが、日本経済が著しく国際化し多数企業が海外に多角展開している今日、円安が輸出増を促し国内景況の活性化を促す力はかつてほどではない。逆に、輸入依存度の高い諸物資の国内価格高騰を通じて国内の主として中小企業や個人消費にはマイナスに作用する。個人消費の伸びには、4月からの消費税率引き上げに加えてさらなる抑制圧力がかからざるを得ない。
政府は選挙前に8%から10%への消費税率引き上げを先に延ばすと約束した。しかし、円安基調が続くことに起因する輸入物資の価格高騰が引き起こすコスト高は直接間接に消費財の販売価格に上乗せされよう。すなわち円安基調が続くことは、消費税率のさらなる引き上げと同じく消費を押さえ込む。海外展開の有力企業による賃上げやボーナス増による個人消費刺激効果も、相応に減殺せずにはおかず、競争力不十分の中小零細企業やその従業員にとっては“踏んだり蹴ったり”になる。首相はなぜ「1㌦70円時代に戻ってもいいのか」ではなく、「適正水準を探って努力する」と明言できなかったか。
もう一つ挙げる。「株価は上がっている」と首相は発言した。が、これも半可通の証明でしかない。日本の株式市場は安値水準で長く低迷していた。そこでのアベノミクスの登場が株価上昇への支援材料になったことは疑いない。けれども、それ以上に大きかったのは、海外からの買い越し(売りよりも買いが大)であろう。日本の株価がほぼ横ばいと想定しよう。これをドル圏から観察すると、円安が進めば進むほどドル・ベースに換算した日本の株価は低下し続ける計算になる。そこで日本株割安感を誘いドル圏からの対日株式買いが増え日本の投資家もこれに追随する。
仮にアベノミクスが順調に日本経済再建に成果を着々と挙げ得たとすれば、この関係は変わってくる。日本円の対ドル相場も株価も堅調、景況の好転と同時進行してしかるべきである。皮肉にも、景況復活がもたつき、それが円安要因に結び付き、ドル・ベースでの日本株割安感に直結して、日本の株価水準を押し上げた。これが実態だから、東京株式がニューヨーク株式の動きに追随する形になる。「株価は上がっている」と首相は誇らしげに語ったが、実情をどこまで理解してそう述べたのか、疑わしい。
自民と公明の日本経済復調いかんにかかる基本認識の程度が、一連の安倍発言から読み取れる。日本経済の復調は、与党が自賛するようには進んでいないし、難問―最たるものが格差の拡大―にも有効な対策を打ち出し得ていない。それが現況であろう。
ところが、最有力野党の民主党は与党の掲げる政策を批判するだけ。有権者多数の共感を誘うほどの政策体系を提示し得なかった。有権者の中には“白けた気分”になった人々も少なくはなく、これが投票率低下の重要な一因だったのではないか。
与党と最大野党の政策に強い不満を抱く有権者の一部は格差解消を強調する共産党に票を投じ、共産党は議員数を伸ばすのに成功した。けれども、25年前のベルリンの壁の崩壊は何を意味するのか。東独(当時)の共産政治下では生きていくことさえ困難と西独(同)へ難民となって逃げ込んだ旧東独民が数百万人規模に達し、これが東独の壁構築の要因になった事実を、知る日本人はほとんどいまい。
(おぜき・みちのぶ)






