強い打算で始まる舛添都政
自公と三者三様の思惑
残念な投票率と女性候補不在
国政選挙より長い選挙のはずだが、首都・東京の顔を選ぶ選挙は、「あっけなく」終わった。投票日前日に45年ぶりの大雪に見舞われたとはいえ、あまりに低い投票率を見ると、都民はどれだけ真剣にこの選挙に向き合ったのかと思わずにいられない。またその低い投票率で選ばれた新しいリーダーは、どれだけ都民の信頼を得られたのか。「舛添氏、圧勝」や「安倍政権信任」の言葉が躍る選挙結果の報道より、政治全般に対するもっと深い真意を探る必要がある。
今回の結果は、一にも二にも、「組織」の勝利と言える。1068万5343人の有権者を抱える東京都知事選は、空中戦では到底勝利の見込みはなく、やはり「地に足のついた」選挙運動をしないといけないのだ。それには、運動員、費用、知名度といった確実な「選挙基盤」が必要なのである。これほどの規模の選挙となると、相変わらず「ジバン、カンバン、カバン」が必要だということだ。衆議院の小選挙区選挙では、平均七、八万の得票で当選できるのとは違い、都知事選は200万票以上獲得しなくてはならない。選挙区も広い。無党派やネットだのみの選挙では到底勝てるような規模の選挙ではないのである。
自公の組織がフル回転した今回の選挙は、基地問題が争点の沖縄・名護市長選で敗北するという大きな痛手を負った安倍政権と、都知事へのチャンスを狙っていた舛添氏の、勝利のためならなりふり構わないという両者の打算が一致した結果であったと言えるであろう。いち早く支援を決めた公明党の、安倍政権に対する「貸し」は、今後、自公にとってかなり重いものとなるのは間違いない。三者三様の思惑ながら、この打算の集大成が、今後どう影響するのか、注視していかなければならない。
今回の、46・14%という過去3番目に低い投票率で、211万票という舛添氏の得票をどう考えるかという問題がある。得票率は43%で他の候補を圧倒しているが、有権者の半数以下しか意思表示をしておらず、そのうちの半数にも満たない人々からの支持ということになる。つまり、積極的に舛添氏を支持した人々は、都民有権者の5分の1でしかないということだ。また2位から4位までの候補者の得票率の合計は53・3%であるということにも留意すべきだ。
2位から4位までの3人の候補者の政策はかなり違うとはいえ、必ずしも、舛添氏が都民の絶大なる期待や支持を受けて当選したのではない、ということである。「圧勝」と報道されればされるほど、慎重な都政運営が求められている。もちろん、勝ちは勝ちであり、日本の選挙制度上、舛添氏が新都知事になることに何ら異議はない。しかし、このような勝ち方のときこそ、“生かされなかった都民の意思”を深く考える必要がある。
今回の選挙で、もっとも明らかになったことは、次の三点であると私は考える。一つは、安倍政権の長期化、二つ目は国民の身勝手さ、そして三番目は女性の人材不足ということだ。
自公政権の組織力の強さをまざまざと見せつけられたことからも、かつて党内での権力闘争を活力として政治を行っていた自民党とは違い、政権に居続けることへの強い執着を感じたのである。少々のことでは、安倍政権は倒れないだろう。
わずか1年で都知事が交代するという事態に見舞われても、なお半数以上の都民が選挙へ行かない。大人が、親が、選挙権を行使する姿を見せずして、全うな国民は育たないのである。天候など言い訳にならない。大雪の予報も出ていたのだから、期日前投票をすればよいのである。病気など、致し方ない理由がない限り、選挙に行かなかった都民有権者は、次の選挙まで、一切意見する資格などないと思ってもらいたい。
世界各国は、女性リーダーが活躍する時代である。封建色の強いと思われているアジア諸国でも、大統領や首相に女性が就く時代。日本も、女性首長は少しずつ増えてきたが、日本の顔でもある東京都知事の候補者に女性が一人もいないということは、やはり女性がリーダーになりうる人物として育っていないということであろう。
「知事適齢期」の有能な女性はたくさんいると思うが、政治の場に足を踏み入れるほどの魅力がないと感じていることも、一因であろう。誰もがリーダーを目指す能力をもっているわけではないが、その可能性を秘めている人材は、貴重であるだけに、しっかりと育てる環境づくりも、今後課題ではないだろうか。それは、政党も社会全体も責任を持っていることだと私は思う。
さて、舛添新都知事に期待することは、私は一にも二にも、防災対策である。老朽化した建築物や交通インフラ、特に首都高速などは、直ちに対策を講じるべき課題である。首都高については、大半が「都道」扱いであり、東京都の決断がなければ対策がとれない。これまでの都知事は、首都高速の危険度を承知していながら、手を付けて来なかった。都民の命を守るための最大の使命は、この首都高速の老朽化対策にあることを肝に銘じて、都政に果敢に取り組んでもらいたい。
(ほそかわ・たまお)






