中国宇宙開発戦略に注目を

茅原 郁生拓殖大学名誉教授 茅原 郁生

軍と一体化し領域拡大

経済・外交にも巧みに活用

 中国は2013年の国内十大ニュースの3番目に宇宙開発の成果を上げていた。中国の国内外の十大ニュースは毎年末に国営通信社・新華社によって選定され、国家意思の反映と目されている。

 急台頭する中国は近年、宇宙開発もまた積極的に推進し、実際、昨年には有人衛星「神舟10号」を打ち上げ、月探査衛星「嫦娥(じょうが)3号」を月面に軟着陸させるなど成果を上げた。中国は宇宙開発の成果で、国威を発揚するとともに習近平主席が唱える「中華の夢」に結びつけており、その実態を紹介しておこう。

 まず「神舟10号」は昨年6月26日に女性を含む飛行士3人搭乗の衛星を酒泉発射基地から打ち上げ、別の軌道を周回中の天宮1号に接近してドッキング(接合)したのが第一の成果である。「天宮1号」に接合後に3人の乗組員が実験モジュールに移乗し、天宮号内で各種科学実験を実施した。

 中国の宇宙ステーション構築計画は、現に稼働中の米露日カナダなどの共同出資による国際宇宙ステーション事業(ISS)に参加することなく、2020年を目途に独自に開発を進めているものである。今後は15年にスペースラブ天宮2号を打ち上げてセンターの本体とし、完成時には有人宇宙船、実験船、貨物補給船などの五つからなるT字型の宇宙基地の構想で進められている。

 同時に中国の宇宙開発には軍部が深く関わっており、地上監視・偵察など宇宙ステーションの軍事利用も考えられる。現に昨夏に打ち上げの神舟10号の実験も国防科学技術工業委員会が担当し、総指揮は解放軍総装備部長の張又侠上将がとり、打ち上げ作業も第二砲兵部隊によって担われている。また、宇宙飛行士も聶海勝少将をトップに3人とも現職軍人だった。中国が宇宙ステーションの完成を目指す20年は、現に稼働中のISSの任務終了と重なる。米国などでISSの運用延期の検討が出始めたものの、場合によっては20年を契機に中国の宇宙ステーションの独壇場になる可能性さえある。

 第二の成果は、月探査衛星の月面軟着陸である。中国の宇宙開発は、軍事目的だけでなく、月面探査の「嫦娥計画」や火星探査など広範に進めている。

 「嫦娥3号」は昨年12月2日に西昌宇宙発射センターから打ち上げられ、14日に月面に軟着陸した。中国は今次成功で米ソ(ロシア)に次ぐ3番目の宇宙大国となり、76年の旧ソ連による月探査機「ルナ24号」の成功以来、人類が月面探査に着手してから130回を経た快挙だと誇示している。

 その状況は新華社電(13年12・14)によると、月面15㌔㍍上空に位置を取った「嫦娥3号」は12分間かけて減速、速度調整、障害物回避などのプロセスを経て月面に接近し、100㍍上空からは静止飛行に入り、自然落下方式で降下し、数㍍上で4本の足を出して軟着陸に成功した。続けて、今次着陸点は月面「ルーニクス湾」の東部であり、着陸した「嫦娥3号」は地上からの指令で本体から月面移動車「玉兎号」を数時間かけて用心深く月面に下ろした。さらに「嫦娥3号」は太陽光パネルを広げるなどの手順を経て、月面移動車の分離過程を画像データとして地上に転送した後に、玉兎号は月面探査活動を開始した、とも伝えている。

 これにより中国の今次の月面探査は、「嫦娥3号」の定点観測と、玉兎号による自走行探査をもって進められている。この「嫦娥3号」の月面軟着陸と月探査は「嫦娥計画」の「周回、着陸、回収」の第2段階の実験であり、自動監視探査、深宇宙観測・通信、夜間はマイナス180度も低下する月面での生存技術をクリアすることも任務となっている。

 これら一連の月面探査の活動は、地上の管制センターで習近平主席をはじめ、党・国家・軍部の指導者も見て賞賛しており、その重要性が再確認されていた。そして党中央、国務院、中央軍事委員会から祝電が出されたが、その宛先は工業情報化省、中国科学院の外に、国家国防科学技術工業局、軍総装備部、中国航天科技集団公司、中国電子科技集団公司と、国防関係機関が名前を連ねていたことである。このように中国の宇宙開発は軍と一体化し、既に50年代から「両弾一星(原・水爆と衛星)」を合言葉に核・ミサイルの開発と共に着手されたものだ。

 中国の宇宙開発にかける強い動機には、米軍事力の圧倒的な優位は軍事革命を先導する宇宙の戦力化が支えていると見て、それへのキャッチアップがある。そしてアジア地域にリバランス戦略を展開する米国との確執が今後ますます強まる予測にあって、中国は宇宙の戦力化に力を注いでいる。

 また中国は宇宙開発力を外交・経済にも上手に利用している。現にボリビアの発注による通信衛星の打ち上げをモラレス大統領視察下で成功させている。またブラジルとも、アマゾン地域の森林破壊や土地の農業活用などの状況調査用の資源探査衛星「資源1号03星」の共同打ち上げでベナルド通信相と商談を進める(中国通信、13年12・17)、などに波及している。

 中国が新興大国として戦略領域を拡大することへの懸念は、尖閣問題や防空識別圏設定などに目を奪われがちだが、宇宙分野でも着実に成果を累積しており、その実態を看過してはならない。翻ってわが国の宇宙開発戦略のあり方も問い直されなければならないのではないか。

(かやはら・いくお)