比政府とMILFが近く包括的な和平合意へ
反対派はテロ活動を活発化
反政府勢力との和平を目標に掲げてきたアキノ政権に、大きな進展が訪れている。先月末にマレーシアの首都クアラルンプールで行われた、フィリピン政府と国内最大のイスラム反政府勢力であるモロ・イスラム解放戦線(MILF)との和平交渉で、これまで大きな課題となっていたMILFの武装解除などの内容で合意に達し、近く包括的な和平合意に調印する見通しとなった。しかし、これに反対するイスラム武装勢力が反政府活動を活発化させており、和平達成の大きな懸念となっている。
(マニラ・福島純一)
MNLFとBIFFが共闘か
政府側の交渉団によると、早ければ3月までに和平合意文書に調印する見通し。その後、新たに設立されるバンサモロ自治政府の創設に向け、基本法案の準備や、自治区に編入される地域をめぐる住民投票などが本格化し、アキノ大統領の任期が終了する2016年までに自治政府の創設を目指す。
ようやく本格的な軌道に乗り始めた和平問題だが、依然として懸念も残されている。その一つが、政府との和平に反対する複数の武装勢力の存在で、現在その中心となっているのが、MILFから分離した武装勢力のバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)だ。彼らは活動拠点であるミンダナオ島のマギンダナオ州を中心に、国軍への攻撃を活発化させている。
マレーシアでの和平交渉で、政府とMILFの合意後、これに反発するBIFFが国軍と衝突を繰り返しており、先月26日から約1週間続いた国軍による掃討作戦で、BIFF側だけで50人以上が死亡、3万人以上の住民が避難を強いられる事態となった。国軍はこの戦闘で、複数のBIFFの拠点を制圧し、爆弾の製造工場などを無力化したと説明している。
アキノ大統領は、「国軍は、民衆に危害を加え和平を妨害する違法勢力を鎮圧する作戦を行う」と述べ、和平を妨害するBIFFなどの反政府勢力に対して、掃討作戦を継続する方針を示しており、MILFとの和平合意に向け、さらに戦闘が激化する可能性も出てきている。
MILFとの和平交渉をめぐっては、昨年9月にも、和平に反対するイスラム系勢力のモロ民族解放戦線(MNLF)のミスアリ元MNLF議長派の武装組織が、サンボアンガ市を占領し、市民を人質にしながら国軍と1カ月近くも戦闘を続け、200人以上が死亡し、10万人以上が避難生活を強いられるという事態が起きている。
さらにここに来て、このMNLFのミスアリ元MNLF議長派が、BIFFを支援する方針を示すなど、和平に反対する両組織が共闘する可能性も出てきている。BIFFは、活動形態を都市部でのテロ攻撃に移行するとの情報も流れており、国軍が警戒を強めているところで、先のマギンダナオ州での戦闘でも、BIFFは各地で爆弾を使用し、車列が爆発に巻き込まれるなどして、兵士や報道関係者が負傷するなど多数の被害が出ている。
こうした和平を取り巻く混乱の中、下院の国防委員会の委員長のビアゾン議員からは、和平を促進させるため、MNLFの指導者であるミスアリ氏など、反政府勢力の指導者への逮捕状を一時停止し、和平プロセスに参加させるべきだとの意見も出ている。しかしながら、今のところ実現のめどは立っておらず、反対派との衝突はまだ続きそうな見通しだ。
包括的な和平合意は政府にとって大きな前進だが、新自治政府「バンサモロ」の創設までには、まだ多くのプロセスと時間が必要となっている。2016年の任期終了までに反対勢力を無力化し、バンサモロの運営を軌道に乗せることができるのか、アキノ大統領の手腕に注目が集まる。






