中国軍 核先制不使用を放棄か、指揮管制システムを拡充

ビル・ガーツ氏

ビル・ガーツ氏
米紙ワシントン・タイムズ(WT)の国防担当記者として、これまでにスクープ記事を多数執筆。2019年11月まで米保守系ニュースサイト、ワシントン・フリー・ビーコンの上級エディター。著書に『Deceiving the Sky(空を欺く)-地球的覇権狙う共産中国、活動の内幕』(Encounter Books)、『誰がテポドン開発を許したか』(文藝春秋社刊)など


 米国防大学の中国軍問題研究センターのフィリップ・ソーンダース所長は、米連邦議会の米中経済安全保障見直し委員会で、増強が進む中国の核ミサイル、爆撃機、潜水艦の指揮管制システムをめぐって証言、新システムの下で中国が、核先制不使用から、核戦争を想定した戦略へとシフトしたとの見方を示した。

 ソーンダース氏は、中国は核戦力の増強を急速に進めており、小規模で未成熟だった戦略軍は、「はるかに大規模で、技術的に進んだ、多様な核のトライアド(ミサイル、爆撃機、潜水艦の3本柱)」へと変貌、「中国共産党の指導者らは、新たな戦略的オプションを手にした」と述べた。

 ソーンダース氏によると、中国軍は新型のミサイル、爆撃機、潜水艦に加えて、核指揮管制システムの拡充に取り組んでいる。そのほとんどは明らかにされていないが、新システムによって、先制不使用をうたっていた核政策は「敵国からの第一撃への抑止力から、『警報即発射(LOW)』または『核戦争』を想定した政策」へと変化したという。

 ソーンダース氏は証言の中で、中国共産党中央軍事委員長でもある習近平国家主席が、核兵器使用の最終権限を持っているものの、その権限は軍事委内での習氏の影響力に懸かっているとみていることを明らかにした。

 有事の核攻撃の命令は、中国共産党政治局または習氏ら7人から成る政治局常務委員会から出される。ソーンダース氏は、「中国共産党は以前から『党が銃を統制しなければならない』と主張し、軍事目的よりも政治目的の優位性を強調してきた」と述べた。

中国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東 風 41」 2019年10月、北京(EPA時事)

中国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東 風 41」 2019年10月、北京(EPA時事)

 核兵器発射の命令は、北京郊外の「西山」と呼ばれる地下施設に設けられている中央軍事委員会合同作戦指令センターに送られる。命令はその後、中国軍ロケット軍本部に送られ、ミサイル基地、発射施設へと伝えられる。

 中国の弾道ミサイル潜水艦部隊は、6隻の094型原子力潜水艦(晋級)を保有しているが、深海航行中の潜水艦に発射や警戒の命令を伝えることが「非常に大きな作戦上の課題」になっているという。

 中国軍は、超低周波帯の送信機を開発し、潜水艦に指令を送っているが、水深90㍍以上を航行する潜水艦と通信可能な低周波帯の無線機と衛星通信の開発に取り組んでいる。