危険なトランプ氏の孤立主義
オバマ外交と次期米大統領の課題(下)
米ペパーダイン大学教授 R・カウフマン氏に聞く
米民主党のクリントン前国務長官が大統領になった場合、外交政策はどうなるか。
オバマ大統領よりはわずかにタカ派になるかもしれないが、大部分はオバマ外交の継続となるだろう。
クリントン氏が発表した「アジア・ピボット(基軸移動)」は、極めてまともなものだった。だが、言葉だけで行動が伴わなかった。米軍を縮小しながらピボットはできない。
クリントン氏のアジア・ピボットは、中国を問題として言及するのを避けている。オバマ政権が最大の脅威と見なす地球温暖化に対処する上で、中国はパートナーという位置付けが前提にあるからだ。
オバマ氏が危険なまでに加速させた米国のパワー縮小の軌道をクリントン氏が反転させる可能性は低い。
共和党のドナルド・トランプ氏の外交政策は孤立主義の印象を受ける。
その通りだ。北大西洋条約機構(NATO)や日米・米韓同盟は役に立たないというトランプ氏の主張を聞くと、オバマ外交はクリントン氏の下だけでなくトランプ氏の下でも生き続ける危険性があることを想起させる。レトリックに違いはあるものの、トランプ氏とオバマ氏の外交政策には多くの共通点がある。
トランプ氏は(レーガン元大統領の政治理念を強く支持する)「レーガンナイト」ではない。危険な孤立主義者だ。
今回の大統領選が危険なのは、民主、共和両党の候補が一般的に魅力がないだけでなく、米外交政策や米国の同盟国の観点からも魅力的でないことだ。
トランプ氏とクリントン氏、どちらが大統領になることが世界にとって好ましいか。
現時点では「バッド(bad)」と「ワース(worse)」の選択だ。
共和党候補がマルコ・ルビオ上院議員かジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事だったら、素晴らしい選択肢だった。テッド・クルーズ上院議員でも良い選択肢だった。共和党候補指名争いは孤立主義者のランド・ポール上院議員とトランプ氏を除き、良い候補者がたくさんいたが、皮肉にも最も受け入れ難い2人の候補者の1人を選んでしまった。
それでも、トランプ氏が外交政策で進化することを期待するしかない。クリントン氏が進化することはないからだ。
次期米大統領が直面する最も重大な外交課題は何か。
三つある。一つは、まず何より、中国の現在の方向性について明確な見解を持ち、米国、日本、インドを中心とした民主主義同盟システムの構築によって対中均衡を図ることだ。
二つ目は、プーチン・ロシア大統領をパートナーではなく脅威と位置付け、東欧におけるプーチン氏の野望を抑止することだ。プーチン氏を本気で抑止するなら、オバマ政権の飾りだけの制裁ではなく、ロシアの主要収入源であるエネルギー分野と金融分野で厳しい制裁を科すことだ。
三つ目は、対イランだ。イラン核合意は関与によってイランを親米国家に転換できると考えたオバマ・ドクトリン最悪の産物であり、究極の無分別だ。
弱さより強さを示し、また、友好国を重視して敵対国を警戒する方がはるかに賢明であることは歴史が示している。だが、オバマ氏はこの伝統をひっくり返し、友好国よりも敵対国を重視している。
次期米政権がこの危険な外交政策を即座に終わらせることを期待したいが、2人の大統領候補がこれをはっきり理解していないのは残念なことだ。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)











