地球温暖化を促進する原発温排水
一般社団法人生態系総合研究所代表理事 小松 正之
海水温上昇し漁獲量激減
ほぼ消滅した福島の沿岸漁業
1970年代前半から90年代前半まで世界一の漁業・養殖業生産量を誇った我が国だが、その後、急激に減少し、現在は第10位にまで陥落した。
その原因は針葉樹林の放置やダム建設ならびに土砂採取など森林と河川の環境の劣化に加えて、沿岸域の埋め立てや堤防建設などにより、生産力が豊かな湿地帯、干潟、河口域と砂州と汽水域ならびに藻場が喪失したことである。
さらに、原子力発電所からの温排水や都市の下水排水などが水温を上昇させ、汚染源として水質を劣化させた。
CO2の溶解量が減少
摂氏285度まで熱せられた原発の原子炉を冷却した海水が、投入時より7~10度高い状態で海洋に放出される。その水量は1000億㌧と推定されるが、日本の沿岸・沖合漁業と養殖業が行われる沿岸域3マイル(14・3平方㌔㍍で水深を10㍍と仮定し1兆4300億㌧)の海水温の0・5~0・7度の上昇を引き起こす熱を供給している。
海流や拡散があるので単純ではないが、温排水の放水時は高温であり、その高温、放射性物質、化学薬品で死滅したバクテリアとプランクトンが包括される温排水が、魚類と貝類の生産量を激減させたと考えられる。
原発の電力として利用する熱効率は34%で残り66%の熱は海洋を温める。我が国における原発の実発電量は全体のわずか6・4%で、液化天然ガス(LNG)の37・4%や新エネルギーの9・3%(2019年、資源エネルギー庁電力調査統計)に比較してはるかに小さい。
温排水で海水温が上昇すると二酸化炭素(CO2)と酸素の海洋への溶解度は低下する。現在、地球に排出される総CO2の約3分の1は海洋に吸収されているが、溶解量が熱で減少する。また、表面の水温が上昇し、深海との対流減で栄養補給が減少し、植物プランクトンの発生が減少する(国連の気候変動に関する政府間パネル<IPCC>報告書)。それを餌とする動物プランクトンや魚類が減少する。そして生体に同定・内包される炭素(CO2から吸収)の量も減少する。
4月13日に政府は第5回廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議で福島第1原子力発電所の処理水の海洋投棄を決定した。福島第1原発の処理水は約2年後に、海洋放出が開始される。現在、東京電力の処理済み汚染水は約125万㌧である。しかし現時点で基準値を超える汚染水が72%もあり、これを再び多核種除去設備(ALPS)で処理する。その際ALPSで取り除けないトリチウムは原発前の海水で薄めて、法定濃度の40分の1以下にして放出するというが、このやり方では直接、汚染原液を流すことと変わらない。
福島県の塩屋崎などの定置網漁業の漁獲量は1981年に9500㌧を記録したが、その後急速に減少し、2000年にはほぼゼロになった。この間に原発の出力は470万㌔㍗(1981年)から900万㌔㍗(2000年)に増大した(資料:農林水産省と東京電力)。このように、漁業は衰退した。
4月28日に40年を経過した原発の再稼働を表明した、もう一つの原発推進の福井県でも福島県同様の傾向が明確に見られる。4万6000㌧(1972年)だった漁獲量が、現在では1万2000㌧(2019年)と約4分1まで減少した。原発の出力はほぼゼロ(1969年)から90年代以降は1200万㌔㍗弱になっている。
影響調査の即時開始を
今回の福島の騒動と46%削減の菅宣言を契機として、全原発、東海村と六ヶ所村核燃料再処理工場が立地する沿岸域の原発の温排水の単なるベクレル量モニターを超えた海洋生態系の総合調査と温暖化への影響調査を至急、開始すべきである。原発は海洋温暖化を通じ、地球温暖化に寄与している。問題はどの程度かである。
原発と海洋生態系や漁業との関係は、日本人と人類にとって重要な課題であり、その解明にチャレンジすべきである。正しい政策は適切で信頼の置ける科学情報に基づく。
(こまつ・まさゆき)