緊急事態拡大 危機感共有し対策徹底しよう
新型コロナウイルス感染抑制のために発令されている緊急事態宣言が北海道、岡山県、広島県にも拡大された。宣言に準じる「まん延防止等重点措置」の適用対象も群馬、石川、熊本の3県が加えられた。危機感を共有し、対策をさらに徹底して感染拡大を抑え込んでいきたい。
諮問やり直す異例の展開
政府は当初、専門家らでつくる基本的対処方針分科会に、群馬、石川、岡山、広島、熊本の5県を重点措置に追加する案を諮問した。これに対し専門家からは、新規感染者が急増する北海道、岡山県、広島県について、宣言発令による強い対応が必要との異論が相次いだため、政府は当初案を撤回し、諮問をやり直す異例の展開となった。
菅義偉首相は「専門家からの強いメッセージを出す必要があるとの意見を踏まえた」と述べている。朝令暮改と一部野党は批判するが、専門家の意見を容(い)れた菅首相の前例にとらわれない「即断」は画期的で、評価されるべきだ。
政府はこれまで感染対策と社会経済活動の両立を目指して、ブレーキとアクセルの両方を使い分けてきた。ただ、感染対策は後手に回りがちだった。
国内での新型コロナ感染拡大から1年以上が経過し、現在の感染拡大の要因となっている変異株を含め、かなりの知見が得られている。感染収束なくして経済社会生活の十全な再開はないことが、第4波の拡大で一層明らかになっている。
特に、感染力がより強いとされる変異株が予想を上回るスピードで広がっていることに専門家は強い危機感を覚えている。国立感染症研究所は全国で9割以上が変異株に置き換わったと推計している。
緊急事態宣言の発令で、宣言地では酒類・カラオケ設備を提供する飲食店に休業要請ができる。百貨店など大型商業施設の休業や、営業時間短縮要請も可能となる。具体的には知事が状況を見て判断する。
飲食関係を中心としたこれらの措置は一定の効果が期待できるが、それ以上に宣言発令の最大の狙いは、国民に危機意識を共有させ、一層の行動変容を促すことにある。ロックダウンなどの強制措置が取れない以上、国民一人一人の協力に感染抑え込みの可否が懸かっている基本構図は変わらない。
緊急事態宣言は5月31日、重点措置先行の地域が5月31日、新規の3県が6月13日までと設定されているが、感染がどこまで抑えられたか見極める必要がある。「すぐに解除の誘惑に駆られる。そこを我慢することが次の光につながる」と語る基本的対処方針分科会の尾身茂会長は、リバウンドを起こさない程度まで感染を抑えることが解除の要件との考えを示している。
首相の迅速な決断を期待
感染抑え込みの切り札となるワクチン接種について、菅首相は高齢者接種をめぐる混乱について陳謝し、「6月末までには1億回分のワクチンを確保し、自治体などと協力していく」と重ねて表明した。今回の宣言発令について、菅首相は前例にとらわれない決断を行った。ワクチン接種の加速でも、迅速な決断・行動を期待したい。