中国TPP申請、参加する資格があるのか


オンライン形式で開かれた閣僚級の「TPP委員会」。右端は西村康稔経済再生担当相=1日午前、東京都千代田区

 中国が環太平洋連携協定(TPP)への加入を申請した。しかし中国が、TPP協定が定める厳格なルールを受け入れられるか疑問だ。

 包囲網に対抗する狙い

 世界2位の経済大国として、中国は来年1月の発効を目指す地域的な包括的経済連携(RCEP)では突出した存在感を示す。だがTPPは、関税を100%近く撤廃するほか、貿易や投資を高い水準で自由化するルールを定める。

 中国が加入するには、知的財産権の保護、国有企業の優遇制限、政府調達の透明性確保などのルールを順守することが前提となる。中国にとって簡単なことではあるまい。

 さらに中国は、オーストラリアから新型コロナウイルスの発生源の調査要求を受け、豪州産の大麦やワインへの制裁関税を導入している。自由貿易推進を目指すTPPへの参加資格があるとは思えない。

 TPP加入の正式な交渉に入るには、参加各国との個別調整を経た上で、最高意思決定機関「TPP委員会」での全会一致による決定が必要だ。中国を例外扱いし、TPPのレベルを下げて加入を認めることがあってはならない。

 中国には、TPP参加に関心を示す台湾を牽制(けんせい)する意図もうかがえる。台湾よりも先に加入できれば、中国の反対で台湾の参加は事実上、不可能となる。台湾をTPPから排除する結果となってはなるまい。

 今回の加入申請に関しては、中国・新疆ウイグル自治区の人権問題にも厳しい目を向ける必要がある。ウイグルでは100万人以上のウイグル人が1200カ所もの収容所で拘束されているとされ、国際社会では強制労働で生産された製品をサプライチェーン(供給網)から排除する動きが広がっている。中国国内で人権弾圧や強制労働が続く限り、TPP加入は難しい。

 中国の習近平国家主席は昨年11月に参加検討を表明した。バイデン米政権主導で構築が進む対中包囲網をにらみ、先手を打つ思惑があった。

 バイデン政権は中国のTPP加入申請に対抗し、日米豪印4カ国の連携枠組み「クアッド」をはじめとした対中包囲網の構築を本格化させる構えだ。米国務省の報道官は、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を念頭に「中国の非市場的な貿易慣行と他国への経済的な圧力」を強く批判。中国がTPP参加11カ国から加入の承認を得ることは難しいとの見方を示した。

 一方、バイデン政権は国内産業の競争力強化を優先し、TPP復帰には慎重姿勢だ。しかし、もともとTPPは米国のオバマ元政権が中国の台頭に対抗して推し進めた経緯がある。

 対中圧力を強めるには米国のTPP復帰が欠かせない。日本をはじめとするTPP参加国は、米国に粘り強く働き掛けていくべきだ。

 求められる英の早期加入

 TPPをめぐっては、英国の加入交渉が始まっている。欧州連合(EU)離脱後の英国は、インド太平洋を重視する姿勢を表明している。自由貿易圏を拡大し、中国を牽制する上でも英国の早期加入が求められる。