中国ミサイル 地域の安全を脅かす暴挙だ


 中国軍は大陸部から南シナ海に向けて中距離弾道ミサイル4発を発射した。米当局者によると、ミサイルは西沙(英語名パラセル)諸島と海南島に挟まれた航行禁止海域に着弾した。地域の安全を脅かす暴挙であり、断じて容認できない。

「空母キラー」を発射

 香港紙の報道によれば、内陸部の青海省から「東風26」(推定射程4000㌔)、沿岸部の浙江省から「東風21D」(同1500㌔)が1発ずつ発射された。いずれのミサイルも大型艦艇を攻撃できる能力があり、「空母キラー」と呼ばれる。軍事力を誇示し、米空母の南シナ海や台湾周辺への接近を阻止することを狙ったのだろう。

 中国は地域紛争時に米軍の介入を阻む「接近阻止・領域拒否(A2AD)」戦略を打ち出し、空母キラーを含むミサイル戦力を大幅に増強した。台湾に対する武力侵攻の可能性を公言する習近平国家主席にとって、米空母を中国近海から排除できる兵器は不可欠だと言えよう。

 中国は南シナ海を、領土・主権に関わる「核心的利益」と位置付けている。しかし、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、中国が南シナ海をほぼ囲むように設定する独自の境界線「九段線」について、域内の資源に「歴史的権利を主張する法的根拠はない」との判断を下した。中国が仲裁裁判決を無視し、南シナ海で人工島を造成して軍事拠点化を進めることは国際法に反する行為である。

 こうした膨張主義は、法の支配という普遍的価値に背を向けるものにほかならない。日本や米国などの民主主義国家は対中包囲網の構築を進め、中国への対抗姿勢を鮮明にすべきだ。

 ポンペオ米国務長官は今年7月、中国の南シナ海における海洋進出について「南シナ海の大半を占める中国の海洋権益の主張は完全に違法」だとして、中国による領有権の主張を明確に否定する声明を出した。米国はこれまで仲裁裁判決の順守を求めるにとどめ、領有権紛争への肩入れを避けてきたが、従来の立場を大きく転換させて中国に対する圧力を強化。米軍も同月、南シナ海で空母2隻による演習を実施した。

 河野太郎防衛相はエスパー米国防長官との会談で、中国のミサイル発射への懸念を共有。日米でミサイル防衛や情報収集・警戒監視・偵察(ISR)の能力を向上させていくことを申し合わせた。河野防衛相は中国を念頭に、新型コロナウイルスの感染拡大の中で「力を背景とした現状変更の動き、先端技術を軍事に採り入れる動きが加速している」と指摘した。

インド太平洋構想進めよ

 辞任を表明した安倍晋三首相の功績の一つに、日米両国やオーストラリア、インドを中心とする「自由で開かれたインド太平洋」構想を提唱したことが挙げられる。この構想は、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の実現を目指すため、16年8月の第6回アフリカ開発会議(TICAD)首脳会議で打ち出された。

 後継首相にも、これに基づく国際連携を強めて中国の強引な海洋進出を牽制(けんせい)していくことが求められる。