県民投票煽る翁長県政の末路

西田 健次郎OKINAWA政治大学校名誉教授 西田 健次郎

何ら権能ない政治ショー
失敗なら県民に責任負わす

 先般の総選挙で沖縄県(4小選挙区)は、翁長(おなが)雄志知事派が3勝、自民党は1勝という結果になり翁長知事や革新は、「オール沖縄の県民の声はいまだ健全だ」とコメントしている。だが、その実態はさにあらず。翁長陣営がオール沖縄の原点であり象徴であると懸命の応援をした4区の仲里利信氏が、自民の西銘(にしめ)恒三郎氏に敗れたのだ。

 1区においては、保守で維新の下地幹郎氏と自民の国場幸之助氏を合わせると、共産党の赤嶺政賢氏よりも3万票多いのだ。1対1であれば、保守が圧勝しているのである。保守票の奪い合い(分裂)の結果として共倒れしたのだ。地元メディアもその事実を相変わらず論評もせずに、3対1で左翼革新が大勝利したかのように喧伝(けんでん)しているが、実際は2対2である。

 さて、来年の県知事選挙で最大の課題は、辺野古(へのこ)移設を容認せざるを得ない陣営と、オールオアナッシングで反対する左翼との対決になる。ところが、翁長県知事の「辺野古」(普天間飛行場の名護市移設反対という意味)1点のみの戦いは、論理も戦術も破綻している実態がある。翁長知事は、那覇空港第2滑走路の埋め立て工事、那覇軍港移設、浦添西海岸開発、普天間飛行場の固定化などに知らんふりをしている。

 終末を迎えている翁長知事に残された戦術は何があるのだろうか。列挙してみた。

 一つは、国を訴えまくる裁判闘争。

 二つ目は、国、県、名護市の自己決定権によって行政の承認を撤回できるかどうか。

 三つ目は、県民投票をどうするのかという問題だ。

 1番目については、最高裁の判決の要旨の限りでは、県が勝てる展望は全くないし、オール沖縄の多くの識者も指摘している。

 大田昌秀県政時の1995年、米軍用地契約で県知事が握っていた代理署名の権限を拒否したために、防衛庁長官に契約の権限が移ってしまった。米軍との軍用地は契約切れになっており、読谷(よみたん)村の象のオリ(楚辺(そべ)通信所)で知花昌一氏グループが侵入し騒いだ。知花氏といえば、日の丸焼却事件で有名になった人だ。

 嘉手納(かでな)空軍基地の滑走路に反戦団体が突入を試みたが、米軍とガードマンが強行阻止した。日本政府は慌てふためいた。なにせ国内法より上位にある日米安保条約は、主権国家の日本が米軍に軍事基地を提供し、安全運用を保障する義務がある。日本は国家責任として乗り切るべく、国会議員の80%の賛成で「米軍用地契約」の特措法を立法化してしまった。

 国の論理と対峙(たいじ)するには、近世沖縄史の一コマである過去の恨みを訴えることとテロもどき反対運動だけでは勝てない。法律を決定するのは国会であることと、日米安保体制の維持を念頭に戦略戦術を駆使しなければならない。

 故に筆者は、安慶田(あげだ)光男前副知事ならソフトランディングの策ができるものと期待もしていたが、今年1月、教職員採用をめぐる口利きで辞任してしまい、その期待は一気にしぼんだ。

 まったく勝てない国との訴訟騒ぎは来年の名護市長選挙、県知事選挙まで辺野古阻止で国と戦っているとのアリバイ作りと時間稼ぎのパフォーマンスでしかない。血税のムダ遣いを含めて断じて許せない。

 2番目については、翁長知事は反対集会で数回にわたって「撤回」すると煽(あお)っている。辺野古移設反対派の識者らは沖縄2紙のオピニオン欄で「なぜ早急に撤回を決意しないのか」「躊躇(ちゅうちょ)していると埋立事業は立ち戻りのできない状況に進行してしまう」との焦りの声を上げているが、ほとんどが勉強不足と無責任な情緒論である。

 翁長知事が撤回できないのは、「撤回」に踏み切った場合、一定時間の工事中止は可能だが、国の訴訟で翁長知事が敗訴するのは確実である。オール沖縄勢もそれを予見している。

 その結果として、法令により正式な手続きで承認された公共事業を遅延させられると、その損害賠償は翁長知事個人に発生する。全国で数列の実例がある。その事実は、翁長知事も承知しているので「撤回」には踏み切れずに思慮している。

 さて、次なる戦術は3番目の県民投票。県民投票をちらつかせて反対のノロシを高揚させておき、来年の知事選挙まで命脈を続けようとの意図が見え見えだ。

 しかし、昨今、翁長知事は不可思議な言動を始めている。

 いわく、県民投票条例の提案は、知事本人は提案しないから県民が立ち上がって県議会に要請しろとのこと。その真意を指摘して本論の結びとしたい。

 まず、およそ10億円以上の血税を要する投票条例は、革新系与党が過半数を占める県議会では辛うじて成立するだろうが、この条例は国への影響力も無いし、法令も行政上も何らの権能も無い政治ショーでしかない。

 大半の県内首長で構成する保守系の「チーム沖縄」が、県からの投票委任事務を拒否すれば県民投票は実施できなくなる。翁長知事はその恥を逃れるべく県民に立ち上がっておまえたちがその恥を負えという姑息(こそく)な仕掛けをしているのだ。そんな仕掛けには応じてはならない。

(にしだ・けんじろう)