中国「漁船」、必ず3隻で行動

国防最前線・南西諸島はいま
第2部 自衛隊配備へ動く石垣島(1)

 沖縄本島より西の南西地域では、中国の漁船や公船などがわが国の領海を侵犯する事例が常態化している。このため、防衛省は南西諸島防衛の強化を急ピッチで進めている。第2部では、体制を強化して領海警備に当たる海上保安庁(海保)の奮闘と、石垣島や宮古島などでの自衛隊配備への動きを追った。
(那覇支局長・豊田 剛)

海保の警告も無視
組織化された民兵?脅える地元漁師ら

 「尖閣諸島周辺で漁をする時、中国漁船がぴったり横に付いてくる。ただの漁船には見えず武装している感じで、必ず、3隻一緒に行動している」(仲嶺忠師・石垣市議)。

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 これは単なる中国漁船ではなく、組織化され武装した民兵が絶えずわが国の漁船を監視しているのではないかとの疑念を抱かせる証言だ。

 石垣島から北方170㌔にある尖閣諸島周辺では、8月以降、連日のように中国公船が接続水域に侵入。さらに数百隻規模の大漁船団が訪れるようになった。これに石垣島の漁師らは大きな恐怖感を感じるようになった。

 「中国、台湾漁船は石垣の漁船よりはるかに船体が大きい。網が絡まって切られることも日常茶飯事だ。リスクを冒してまでも漁に行くメリットはない」と話す漁師もいる。

 中国漁船は、トロール漁法に似た「虎網漁法」を行っている。集魚灯と巨大な網を使って根こそぎ魚を取っていくやり方だ。「本マグロやアカマチ(ハマダイ)などの高級魚の漁獲高が減ったのだが、乱獲されているのでは」とある漁師は懸念する。

 2014年、小笠原諸島と伊豆諸島の領海と排他的経済水域に多数の中国漁船が侵入し、赤サンゴを大量に密漁した。砂川利勝県議(石垣市選出)は、「同じような目に遭わないか心配だ。漁業者にとって貴重なマグロが乱獲されてしまっては困る」と強調する。

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石垣港に係留している海上保安庁の巡視艇

 尖閣諸島海域で安心して操業できる環境づくりを推進しようと、船長でもある名嘉全正氏が漁師たちに呼び掛け、「尖閣で漁をする海人(うみんちゅ)の会」を13年に結成した。約30人の会員は「尖閣方面はトラブルが面倒でとても行けない」と口々に訴える。

 漁港の近くでダイビングショップを営む仲嶺市議は、漁業者との付き合いが密なだけに、彼らの心中を察するに余りあるようだ。

 「いいポイントで釣っていても、海保から『中国の公船が来るから避難してください』とか、島陰に隠れるよう言われる。経費を掛けて出ていって、水揚げできないのであれば、漁業にならない」

 しかも、中国漁船は、海保がいかなる警告をしようと無視を決め込んでいるという。「彼らは攻撃したり威嚇したりはしないものの、じっとこちらを監視している。電光掲示板で『中国の領土』という文字を流しているようにも見えた」というのだ。

 「こちらの漁船が帰る時になると、追尾してくる。こうした光景を、中国のメディアは、日本の船を追い返したかのように伝えているのがしゃくに障る」と同市議は憤る。

 ただ、尖閣方面に漁業者が漁に出れば、海保が漁船を警護しなければならず、尖閣諸島に対する警備が手薄になるのは避けられない。そうした状況ができてしまうのは好ましくないというのが漁業者の認識である。石垣島の漁師は尖閣防衛をも考慮して、自分たちの経済活動を自粛しているのが現状なのだ。

 接続水域 領土から24カイリ=約44・4㌔㍍。領海の外側に接している。公海と同様、どの国の船でも自由に航行してよいが、接近してくる船に対して警告や監視できる。

 排他的経済水域 略称はEEZ。領海を越えてこれに接続する水域で、領海基線から200カイリの範囲。