命脈尽きる翁長沖縄県知事

西田 健次郎OKINAWA政治大学校名誉教授 西田 健次郎

官邸と既に「手打ち」か

「辺野古」裁判次第で勇退も

 沖縄県の翁長雄志知事は、したたかな野望のもと、巧緻に長けた選挙戦略・戦術を駆使して知事のイスを手に入れた。

 翁長知事の政治スタンスは本来、保守本流そのものを標榜するものだった。憲法9条問題はいざ知らず、日米安保を容認し、自衛隊の存在を認め、天皇制を尊重する姿勢をみせ、つまりは共産主義政治思想を排撃する勢力に与していたのである。

 保守本流路線に乗っかって沖縄県議会議員、那覇市長として長年政界をリードしてきた政治家が、ただただ県知事にのぼりつめるために、共産党、左翼革新勢力の票を取り込む狙いをもって「オール沖縄」の詭計戦術を編成。偽善的な態勢を組んで昨年の知事選挙に勝利して今日に至る。

 知事就任と同時に副知事人事をはじめ、県の主だった外郭団体まですべての分野で側近人事を断行した。徹底した側近人事、選挙功労人事をみると、さすが利権政治家と思わざるを得ないが、近年まれな老獪パフォーマンスで求心力を高めてきた翁長知事の命脈は、「辺野古埋め立て」をめぐる官邸との密談を重ねるなかで、どうやら最終ラウンドが見えてきたようだ。

 普天間基地の危険性除去を原点とする名護市辺野古崎埋め立て問題は、翁長知事誕生から沖縄県と日本政府(国)の対立を激化させた。

 日米安保や自衛隊反対を唱え、毛沢東思想の中国共産党と拉致国家の北朝鮮を礼賛してきた従来の沖縄左翼革新勢力は、「辺野古移設反対」を最大のスローガンに掲げ、知事選挙や国政選挙を戦ってきた。ところが、選挙結果は敗北のみで保守勢力に勝てない。そこで選挙に勝つための戦略・戦術として採用したのが一部保守勢力の取り込みである(見方によれば革新凋落でもあり、保守分裂ともいえる)。

 常々、知事のイスを狙っていた翁長那覇市長(当時)は、県議時代、辺野古移設賛成・メガフロート推進者だった衣を脱ぎ捨て、選挙に勝つためだけに「辺野古反対」を突然叫び出し、革新勢力にスリよりつつ、シリ馬に乗った。

 去年11月の知事選挙前の有名な話がある。

 沖縄の各市町村が一堂に集まった席で翁長氏は「辺野古移設に反対しても、しなくてもどうせ国は移設させる。移設反対を叫んだほうが沖縄振興策が引き出せる」とうそぶいた。関係者によると、実際にあった話だという。基地と振興策を見事にリンクさせた言動である。

 こんな情けない政治家をシリ馬に乗せた左翼革新勢力は、辺野古移設を阻止して、なにがなんでも安倍政権に打撃を与え、自民党政権さえ倒せばいいと騒いでいるにすぎない。

 さて、翁長知事と辺野古移設問題は今後どうなっていくか。

 筆者の深読みとしては「辺野古はすでに決着した。翁長知事と官邸(菅官房長官)は手打ち、談合済み」とみる。

 辺野古問題をめぐって過去10回以上、日本政府の菅官房長官と、沖縄県の翁長知事の命を受けた安慶田光男副知事が密談を重ねた事実をみればコトは容易に理解できよう。

 もはや辺野古埋め立てのシナリオは出来あがっているとみてまちがいないだろう。

 オナガの面子も立て、国の目的も達成できる真夏の夜のシナリオは完成した(はずである)。

 9月7日を最終刻限にした前後5回に及ぶ国と県の「辺野古協議会」は国のアリバイづくりに利用されたが表向き決裂した。その後、国連人権理事会でわずか2分だけスピーチした翁長知事は、もう後には引けず、埋め立て承認取り消しというカードを切った(反対派は溜飲が下がる)。翁長知事に残されたカードはあと何枚あるか。

 埋め立て工事を止めない国を裁判に訴えるか、県民投票くらいだろう。

 これに対して国は裁判を受けて立つか、行政法に基づく代執行、特措法の緊急制度等その他カードが多いように思える。

 県の関係者によれば、今のところ、県民投票の可能性は薄く、むしろ裁判闘争が避けられない状況になっている。

 大田革新県政時代、軍用地契約の代理署名拒否に対し、国は特別措置の緊急立法で対抗するかたわら、県の提訴を受けて立った。最高裁まで争った裁判闘争は県が敗北した。

 多少時間はかかるにしろ、国は辺野古埋め立ての目的を達成すればいいのだから。

 日米安保条約を絶対の基軸とする日本政府(国)の基地行政の歴史と教訓を学ぶとき、辺野古移設に関して、駆け引きのプロである菅官房長官と、県の安慶田副知事の間には埋め立てを「了」とする水面下のシナリオが仕上がっている、と断言する。

 裁判闘争をふくめ、知事就任以来、オナガは尽くせるだけあらゆる努力をした。だが、国のカベは厚かった。地方自治行政の限界を悟り、体調問題もあってオナガは国民的英雄のまま名誉ある勇退で幕を引き参議院に上るのか。

 それとも、筆者の単なる深読みか――。

(にしだ・けんじろう)