法的喫煙年齢は引き上げよ
「18歳」引き下げは誤り
より深刻なニコチン依存に
選挙権年齢が18歳以上に引き下げられ、成人年齢も民法改正により20歳以上から18歳以上に引き下げる議論の方向にある。このことにともない、喫煙が法的に許される年齢も18歳以上に引き下げようとの動きがでている。
成人年齢が18歳になれば、その年齢からたばこや酒が法的に許容されてよいと単純に考えるかもしれない。しかし、これは医学的な面からみて大きな誤りである。
平成11年(1999年)2月から3月にかけて当時の厚生省が行った「平成10年度喫煙と健康問題に関する実態調査」では、ニコチン依存度を①朝起きてから最初のたばこを吸うまでの時間②全く吸わないで1日を過ごすむずかしさ③1日に吸う本数―から、最高12点の依存度スコアを算出し、喫煙開始年齢の年代とニコチン依存の相関を調べている。8点以上の高いスコアはいずれも10代、20代、30代の順で多く、逆に6点以下になると30代、20代、10代の順という傾向を表している。
現在、引き下げの対象年齢として挙げられている18歳は、ニコチン依存がもっとも形成されやすい年齢であり、喫煙を開始して1~2年の間に毎日喫煙に至る人たちが多い年代である。ニコチン依存は喫煙開始年齢が20代以降よりも10代の方がより強く形成されやすいのだ。
また、30代の喫煙者の多くが10代ではじめての喫煙を経験している一方、20代のなかば以降には喫煙を開始しても毎日の喫煙に至らないことが多い。言い換えれば、20代なかばまで喫煙しなければ、たとえたばこを吸ってみても、喫煙者になってしまう可能性は少なくなる。10代で喫煙開始した人の多くが強いニコチン依存を持つに至り、たばこがやめにくくなってしまう。
さらに、10代での喫煙は健康面でも深刻な影響をもたらす。肺がんも心筋梗塞も、10代で喫煙を開始した人たちがもっとも高率に発症する。
将来の病気だけではない。2012年には、米国での大規模な研究の結果、10代の喫煙開始で肺の発育が障害され、気管支喘息が増加し、腹部大動脈の動脈硬化が促進される深刻な因果関係があるという健康への影響が示された。10代での喫煙開始は将来の病気を引き起こすだけでなく、10代ですでに健康を阻害する可能性があるのだ。
喫煙者になってしまったのなら、禁煙外来などで治療すればよいのではとの意見もある。禁煙補助薬の発達によって、10代で喫煙者になった子どもたちも禁煙を開始することが以前よりも容易になった。奈良県においては、「未成年者禁煙相談支援事業」として県が子どもたちの禁煙相談を推進している。学校と保健所、医療機関、家族が一体となって子どもの禁煙を支援する仕組みで、世界にも例をみない緻密なサポートが子どもたちに提供される。こうした支援を受けた子どもたちは、成人とほぼ同程度の禁煙成功率を挙げる。
しかし、前述のように10代での喫煙は強いニコチン依存を形成することが多い上に、喫煙している友だちからの誘いを断りにくいなどの理由で、子どもたちはいったん始めた禁煙から簡単に喫煙に戻ってしまう。禁煙外来があるから喫煙してもよいということにはならない。
法的な喫煙可能年齢を20歳以上としていても、実際には18歳くらいで吸い始める場合が多いのだから、現状追認で18歳を法的な喫煙可能年齢とすればよいとの意見もある。しかし、これも誤った意見である。20歳としていても18歳で吸い始める人が多いということは、18歳で喫煙可能とすると16歳くらいで喫煙を始める子どもたちが今以上に増加することが容易に予測される。
現在ほとんどの高校は敷地内禁煙となっている。これが喫煙防止教育の普及や社会の禁煙の流れと相まって、高校生の喫煙率は2000年ごろに比べて大幅に減少した。しかし、18歳にまで喫煙可能年齢が引き下げられると、高校3年生が喫煙しても法的に認められるということであり、高校の敷地内禁煙をも揺るがしかねない。
米国では、従来18歳で法的に喫煙可能としていたことを見直し、21歳まで引き上げる自治体が増加している。法的な喫煙可能年齢の引き上げは、喫煙開始年齢を遅くし、喫煙者数の減少に直結する。受動喫煙も減少することから、住民の健康に寄与することが明らかだ。
こうしたことから、日本医師会など医学団体はこぞって引き下げに反対の意見を表明した。大学生の健康を守る立場の国立大学法人保健管理施設協議会なども反対の意見表明をしている。私が所属する日本禁煙科学会では、医学的な根拠に基づき、法的な喫煙可能年齢を22歳以降に引き上げることを提言した。
若い時期は有害物質の影響を受けやすい時期でもある。前途ある若い人たちの健康を、喫煙許可年齢の引き下げによって害することがあってはならない。これを機会に若い世代の喫煙開始の有害性についての認識を国民全体が高め、正しい判断を願うものである。
(たかはし・ゆうこ)