日米新「蜜月」時代の沖縄問題
知事訪米の土産は何か
被害者意識で物事語る陥穽
4月下旬以降の安倍晋三(内閣総理大臣)の訪米は、黒船来航以来、160年に及ぶ歴史の中でも時代を画する意義を持つものである。
日米首脳会談に際して発表された「日米共同ビジョン声明」では、「(日米)関係は、かつての敵対国が不動の同盟国となり、アジア及び世界において共通の利益及び普遍的な価値を促進するために協働しているという意味において、和解の力を示す模範となっている」と記される。
安倍が連邦議会上下両院合同会議で行った演説は、日米関係における新たな「蜜月」の到来を告げるものであった。
もっとも、こうした日米関係の新たな「蜜月」は、TPP(環太平洋経済連携協定)妥結や集団的自衛権行使に裏付けられた安全保障法制の整備といった諸々の政策案件を処理できてこそのものである。就中(なかんずく)、在沖米軍普天間基地移設案件の落着は、その政策案件の最も重要にして困難なものである。
振り返れば、此度の安倍訪米以前、オバマ政権下の米国政府の対日姿勢が決して穏やかではなかったのは、この案件で「最低でも県外」を標榜(ひょうぼう)して混乱を招いた鳩山由紀夫内閣の対応に因(よ)る。普天間基地案件への対応で生じた日米関係の軋(きし)みは本来、この案件の落着を通じてこそ明白に正されなければならないのである。
事実、安倍は、バラク・H・オバマ(米国大統領)との日米首脳会談の席上、普天間飛行場移設案件に関して、「辺野古移設が唯一の解決策との政府の立場は揺るぎない。沖縄の理解を得るべく対話を継続する」という旨の発言をしている。
日米首脳会談に先立って開催された外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で発表された共同文書には、「普天間飛行場の代替施設(FRF)をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に建設することが、運用上、政治上、財政上及び戦略上の懸念に対処し、普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策であることを再確認した」とある。
とはいえ、翁長雄志(おながたけし)(沖縄県知事)が登場して以降、普天間基地移設という一つの政策に絡む膠着(こうちゃく)は、打開される気配がない。
翁長は、菅義偉(内閣官房長官)との会談に際しては、彼の「粛々と進める」発言に反発し、中谷元(防衛大臣)との会談に際しては、彼の過去の一連の発言には「高飛車だ」と反発している。翁長の姿勢には、第2次世界大戦以降の沖縄の歴史を反映して、沖縄が常に本土の安全保障上の犠牲に供されてきたという一種の「被害者意識」が垣間見られる。
しかし、そもそも、「自分は冷遇されている」、あるいは「自分は差別されている」という類の「被害者意識」を前面に出して物事を語るような姿勢は、他者や周囲との間に「埋め難き溝」を作ることになる。
それは、決して自らに対する「冷遇」や「差別」を克服することには結びつかない。それは、他者や周囲を辟易(へきえき)させるだけの結果を招くものである。翁長もまた、こうした被害者意識で物事を語る「陥穽(かんせい)」に落ちている。
然るに、NHK記事(5月11日配信)によれば、翁長は今月下旬以降に訪米し、米国国務・国防両省次官補級高官、議会、シンクタンク関係者との面談を希望している。
しかし、翁長は、米国に対する「土産」として何を用意しているのであろうか。「土産」というのは、「米国にとって利益になる話」のことである。この「土産」もなしにワシントンに入っても、翁長は、まともに相手にはされまい。
しかも、現在、米中両国の相克の場として浮上する北西太平洋の情勢を前にする限りは、翁長が示しているように結果として米国の同盟網を軋ませるような姿勢は、中国の対外拡張の動きに呼応し、北西太平洋情勢の「不安定化」に結び付く怖れがある。それは、翁長が望まない結果を招く可能性がある。
翁長は、日米安保体制の意義を認める一方で、「沖縄の負担」のみに着目して辺野古移設に反対しているのであれば、次に上げる二つは明言するのが宜しかろう。
①安倍内閣下の安全保障法制整備を沖縄県として全面的に支持する。
②辺野古移設を含めて沖縄に新たな負担が生じる事態は承服しがたいけれども、嘉手納を含めて先々も沖縄に残るであろう基地の運営には、全面的に協力する。
こうした発言は、沖縄における翁長支持層の相当部分を激昂させるかもしれないけれども、「基地のない沖縄」が夢想の類であることを想起させる意義は確かにある。翁長は、日本全体の中で沖縄はどのような役割を果たすべきだと考えているのだろうか。
今は、翁長を含む沖縄の政治家にも、そうした構想の提示が求められる局面であろう。(敬称略)
(さくらだ・じゅん)






