家庭内の子供の人権を守れ

秋山 昭八弁護士 秋山 昭八

児相の虐待受理件数急増
危機に瀕する児童福祉施設

 2000年5月、児童虐待防止法が与野党一致の議員立法として成立した。児童虐待の定義を明確に定め、虐待の禁止を法定して、国および地方公共団体に児童虐待の早期発見および被虐待児の迅速かつ適切な保護を義務付け、守秘義務を負う医者や弁護士などが児童相談所に虐待通告した場合は守秘義務違反を問われないと定められるとともに、虐待を行った者は、たとえ親権者であっても刑法上の責任を免れないこと、児童相談所長等は、児童を保護した後、保護者の面会または通信を制限することができることなどを明文で定めている。

 この内容そのものは、特に新しい制度や権限を創設したものではなく、従来、通達により、児童福祉法や民法、刑法の解釈・運用の中で実施してきた児童虐待に関わる制度について、明文で定めて明確な法的根拠を与えたものである。

 児童虐待の防止そのものを目的として児童虐待防止法が成立したことは、社会に虐待問題を周知させ、その防止に向けて社会全体で取り組む原動力になる。

 実際、児童相談所の虐待受理件数は急増し、2000年度に全国の児童相談所が受け付けた相談は約1万9000件、01年度は約2万5000件だったものが、その後毎年増加し、07年度は初めて4万件を超え、10年度には5万件を、12年度には6万件を、13年度には7万件を14年度には8万件を超えている。

 さらに16年度に対応した児童虐待の件数は前年度18・7%増の12万2578件で、過去最多を更新したことが今年8月17日、厚生労働省のまとめで分かった。1990年度の集計開始以来、26年連続の増加ということになる。同省は、昨年4月の警察庁の通知を踏まえ、警察が児相への通報を徹底するようになったことなどが、増加の要因とみている。

 児相に虐待を通告した人や機関は、警察が5万4813件の最多で前年度から42%増えている。これは配偶者(事実婚を含む)が子供の目の前で暴力を振るう「面前DV(ドメスティックバイオレンス)」について、警察が「心理的虐待」に該当するとして、児相に積極的に通報したためと思われる。

 虐待の種類別では、面前DVなど子供に対して暴言を吐くといった「心理的虐待」が6万3187件(前年度比30%増)と全体の約半数を占めた。「身体的虐待」が3万1927件(同12%増)、育児放棄などの「ネグレクト」が2万5842件(同6%増)である。

 都道府県別では、大阪が1万7743件と最多で、東京が1万2494件、神奈川が1万2194件で、最も少なかったのは鳥取で84件だった。

 厚生労働省は8月17日、2015年度に発生した子供の虐待致死事案の検証結果も公表したが、虐待死は前年度比8人増の52人。うち0歳児は30人(58%)を占めている。0歳児の中でも、11人は生後24時間以内に亡くなっていた。

 虐待の内訳は、身体的虐待が35人、ネグレクトが12人だった。主な加害者は、「実母」が26人(50%)と最多。次いで「実父」が12人(23%)に上り、前年度の3人から大幅に増えている。

 虐待死とみられる事案は16年度以降も発生し、今年1月中旬、東京都世田谷区のマンションに住む30代の母親から「娘を風呂に沈めた」と110番通報があり、警察官が浴槽に沈んだ女児(生後3カ月)を発見して病院に搬送したが、死亡したため、警視庁は母親を殺人未遂容疑で逮捕。同庁によると、母親は「泣きやまずかわいそうだった。浴槽に沈めたら泣きやむと思った」などと供述している。

 虐待死は0歳児に多く、同省は今年度から育児が困難だと想定される「特定妊婦」の相談窓口を整備し、全国の市町村で体制を整え、経済面や男性の暴力などで悩みを抱える女性を支えていくとしている。

 児童虐待防止法は、04年4月に改正された。

 06年に2度目の法律改正が行われ、「この法律は、児童虐待が児童の人権を著しく侵害」するものであるとの文言が第1条に盛り込まれた。

 11年5月、児童虐待の観点からの親権制度の見直しが行われ、親権の一時停止や未成年後見制度の改正を含む民法の改正が実現した。

 児童虐待の受け皿である児童養護施設等の児童福祉施設は、現在、危機に瀕していると言っても過言ではない。なぜならば、処遇が困難な被虐待児の入所が増加しているにもかかわらず、政府の定める「児童福祉施設最低基準」による人的・物的水準はあまりに低位であり、しかも、かつては最低基準を上回る基準を定めていた東京都では、逆に職員の定員が削減されたのが現状である。

(あきやま・しょうはち)