帝国復興目指す中国共産党

ペマ・ギャルポ拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ

派閥争いも脅威は不変
日印関係強化が“野望”阻む

 最近、日本の新聞などメディアでは10月18日から開幕する中国の共産党大会について毎日のように報道されている。さまざまな具体的名前についてもいろいろ臆測し、期待をしたり、おびえたりしているように思う。確かに中国の国内の派閥闘争は多少アジアの安全や繁栄に影響するにしても、私は基本的には共産党そのものが変わらない限り、中国がアジアの覇権を求める限り、その脅威自体が全く変わらないものであると信じる。

 この5年間で119万人の党員を腐敗などの理由で失脚させ、軍のトップの将軍クラス4人を失脚させたからといって、中国の野望である中華帝国の復興は変わらない。たとえ習近平以外24人の政治局員全員が習近平派であったとしても、あるいはその反対であっても中国の野望を実現するための速度には多少影響はあるにせよ、本質的な「中華民族の偉大な復興」に向け、中国史上における元朝や清朝時代の朝貢国はもちろんのこと、東シナ海や南シナ海などまで押さえ、さらに経済力を背景にし「一帯一路」を媒体にしてヨーロッパやアフリカにまで帝国の足をタコのように伸ばそうとしている。

 日本をはじめ世界はこの現実をより深刻に受け止めず、そのための対策を講じずに、中国共産党内の派閥力学に頼ることは他力本願以外の何ものでもない。中華民族の支配権の及ぶ所は国際常識としての領土領海の概念は通用せず、中国の一方的な主張と経済力、軍事力の及ぶ所は全て中国の領土であると考えている。当然のことながらベトナムや沖縄までも彼らに言わせると本来自国の領土であるとのことである。

 このような怪物を作ったのはソ連の脅威を感じ、中国に対して献身的に尽くしたアメリカや日本の誤算であったとも言える。従って今、私たちが注目すべきことは共産党の内部の派閥よりも、その中国が何を考え、何をしようとしているかという部分である。そしてそれによってアジアの安全と繁栄そして世界の平和にどのような影響を与えるかを真剣に考え、それに対する対策を講じることが現実的であろう。

 上記のような中国の野望を阻止する意味では、このたびの安倍首相のインド訪問は歴史的にも重要な一ページとなった。それを誰よりも注目し、反発しているのは中国である。中国の外務省報道官はインドのモディ首相と安倍首相の共同記者会見などを受けて、「今この地域に必要なのはパートナーシップに基づく国際関係であって、同盟をつくる時代ではない」と日印関係の蜜月ぶりを牽制(けんせい)した。

 私はこの10年間、この紙面を借りてアジアの平和と繁栄のため、日印関係を強化することが重要であると繰り返し訴えてきた。今回の安倍首相のインド訪問はただ単に両首脳が個人的な人間関係、信頼関係をより一層深めただけでなく、両国が戦略的に長期的展望で強固な礎を築いたと確信した。今回の首脳会議の結果、15項目の合意書に調印し、その内容は単なる経済協力にとどまらず、安全保障の分野にまで及んだ。

 安倍首相の記者会見での「モディ首相と手を携えてアジア太平洋地域と世界の平和と繁栄を主導していく決意だ」という明言と、日印原子力協定の署名実現に当たってモディ首相からは「日印の協力はインドのエネルギー、安全保障に資するものであり、世界へのメッセージにもなる」という言葉で表されているように、この「世界」へのメッセージというのは明確に特定の国を意識した発言であると私は思う。両首脳の言葉は東南アジアから南西アジア、アフリカにまで至る地域の発展のために両国が今後、協力していく姿勢を明確にしたと受け止めるべきであろう。

 今年7月のインド洋のベンガル湾での日米印による共同演習もそのような意味では一つのメッセージであったかもしれない。また今回の両首脳の成果の一つとして、インド人の日本語教師を5年間で1000人育成し、インドの100の高等教育機関での講座開設となったことはまさに、長期的な展望に基づく両国関係の強化のための強い意志の表れと受け止めるべきである。

 インドにおける安倍首相への熱烈歓迎ぶりは、空港から8キロにわたったオープンカーでのパレードで、道路の両脇には両国の国旗を振る観衆の歓声が響き、これからの日印関係がさらなる段階に入ったことを印象付けた。普段慎重であるインドのモディ首相は北朝鮮問題についても安倍首相と同調する立場を明確にした。

 中国は経済植民地化を象徴する一帯一路の大経済構想の下、パキスタンやスリランカなどで進めている湾岸整備に巨額な投資をし、インド洋周辺の安全を脅かしていると同時に、頻繁に日本の領海領空を侵し、また南シナ海での人工島の軍備化を進めているが、これらを牽制する意味で今回の日印首脳会談は大きな一歩になった。

 インドと日本がアジア地域の自由と民主主義を尊ぶ国々や人々と連帯し、国際法に基づく航行の自由、阻害されない通商の自由を確保することが中国共産党の大会の結果がどうであれ、今後、進めなければならない課題であろう。