「スマホ1日6時間」の衝撃

浅野 和生平成国際大学教授 浅野 和生

青少年の日常生活に支障
用時間抑制に蛮勇を揮え

 アップル社のiPhoneが日本で発売されたのは2007年7月、あれから今年で10年になる。Androidのスマートフォンは、それより2年ほど遅れて09年7月の販売開始であった。スマホの歴史はまだ浅い。

 このほど、内閣府の「平成28年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」(平成28年11~12月、青少年3176人と保護者3541人が回答)と、デジタルアーツ株式会社の「未成年の携帯電話・スマートフォン利用実態調査」(17年1月、青少年618人とその保護者579人のサンプル)の結果が発表された。今や、高校生の98・5%、小学校高学年で60・2%がスマホを所有しているという。よくも急速に普及したものである。

 デ社の調査によれば、スマホの1日平均使用時間は、子供全体で3・2時間(前年調査は3・0時間)、女子高生は6・1時間(前年調査は5・9時間)で男子高生は4・8時間であった。1日の活動時間を18時間とすると、女子高生はその3分の1をスマホに費やしているのだ。

 ところで、国立青少年教育振興機構が昨年5月に発表した「青少年の体験活動等に関する実態調査」(平成27年2月から3月に実施、高校2年生の回答数5319)によれば、高校2年生の50・6%が運動部に所属している。運動部の活動に精励している高校生は、1日5、6時間もスマホを手にできないはずだから、部活に精励しない高校生は毎日7~8時間もスマホとともに過ごしている計算になる。

 なお、同機構の調査で、高校2年生のうち「食事中やだんらん中でも携帯電話やスマホが気になる」という質問に「よくある」と「時々ある」と答えた者が合わせて30%だった。つまり、スマホが気になって、落ち着いて食事もとれないか、まともに家族と会話を交わせない高2生が3割もいるのである。

 デ社の調査でも、子供全体のうち「四六時中、使い過ぎていると注意された」者が36・2%(前年は30・1%)、「食事中もいじっていると注意された」者が23・0%(同18・8%)であった。さらに、「寝落ちするまでいじっていた」者23・0%(同17・8%)、「寝不足でぼーっとしたり、注意力散漫になった」者が16・3%(同13・4%)もあり、女子高生では「頭痛等の体調不良になる回数が増えた」26・2%(前年は14・6%)、「学校の成績が落ちてきたと注意された」20・4%(同9・7%)という深刻な事態がある。

 実は、内閣府の発表は、保護者のスマホによるインターネット利用実態も明らかにしている。それによると、高校生の保護者が1日平均90・3分、中学生の保護者は98・1分、小学生の保護者は99・5分で、年齢が低いほどスマホ利用時間が長く、また利用方法も多様である。つまり、保護者でも若い世代ほどスマホに馴染(なじ)んでいるわけで、その延長線上に大学生、高校生がいるのだ。放っておけば、スマホ利用の長時間化はまだまだ進む可能性がある。

 インターネットのいわゆる有害サイト利用や、出会い系、ゲームのための高額の出費に対する注意喚起、ネットいじめ防止等のための学校、保護者の干渉・指導と比べると、スマートフォンの利用時間抑制については、対応策が十分論議されず、浸透していないのではないか。無料や定額のWiFiやアプリの普及と活用によって、利用時間の長さがただちに犯罪や金銭トラブルと結び付くわけではない。しかし、使用時間の長さそのものが、青少年の学習や日常生活に支障を来すレベルに達している。

 新学期を迎えて、テレビには、スマホの学割販売や、各種スマホ・ゲームおよびアプリのCMが溢(あふ)れている。この春にスマホデビューする小・中・高校生も少なくないだろう。

 スマホ利用の浸透があまりに急速であるため、教育現場や社会の対応が実情に追いついていないのだが、もはや、スマホの長時間利用の弊害について研究を進めるとともに、早急な行政的対応が必要だと考える。

 たばこの外箱には、「未成年者の喫煙は、健康に対する悪影響やたばこへの依存をより強めます。周りの人から勧められても決して吸ってはいけません」とか「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります。疫学的な推計によると、喫煙者は肺がんにより死亡する危険性が非喫煙者に比べて約2倍から4倍高くなります」などの警告文の表示が財務省令で規定されている。スマホにも警告文が必要ではないか。

 荒唐無稽なようだが、利用者の年齢に応じて、1日の利用可能時間を設定し、それを超えると自動的に電源が切れ、それから一定時間はスイッチがオンにできないスマホを開発するなど、強制力のある施策を検討してはどうか。

 スマホの買い替えや、利用者の増大、利用時間の延長は日本の国内総生産(GDP)引き上げに多少の効果があるかもしれないが、青少年が健全な日常生活を送れなくなっては元も子もない。今や、青少年のスマホ利用時間抑制に蛮勇を揮(ふる)うべき時である。

(あさの・かずお)