柔軟なアメリカの大学制度
教授と“契約”する学生
単位ごとの授業料は合理的
アメリカの大学の新学年の始まりは9月であるが、セメスター制(半年単位)やクオーター制(3カ月単位)をとっているので、日本のように一斉入学はなく、保護者が出席するような入学式もない。しかし、統一の卒業式(学位授与式)はあり、たいてい5月下旬か6月上旬に設定されている。もっとも、全員がその日に卒業するわけではなく、前年の秋からこの年の春までに規定の単位を取得して卒業資格を得ている者もおれば、間もなく秋に卒業扱いになる学生もこの卒業式に出てもよい。
面白いのは、この場に多数の父母を見かけることだ。私はアメリカでも子離れができないのかと思ったら、知り合いの教授が「あれは借金取りだ」と言って笑った。
アメリカでは大学生になると一般に親から独立する。したがって、ほとんどが学寮に入るか、何人かの同僚と家を借りて親元を離れる。当然学費も自分で賄うのが建前になるが、成績を落とさずに4年以内で社会に出ようとすればアルバイトをしている余裕はないから、授業料を親に「建て替えて」もらうことになる。すると親は、「貸付金」を取り立てることができるかどうかを確認するために卒業式に来るのだという。
親の支援が期待できない学生は、何年か働いて資金をためてから進学するとか、毎学期に登録する単位を減らして6年ぐらいかけて大学を出るとか工夫する。授業料は日本のように年額ではなく、1単位当たりで決められているから、4年間で120単位とっても、8年がかりで同じ単位数を修めても、基本的に費用は変わらない。これは合理的であり、一課目不足したために1年留年しなければならないというわが国の制度は、国際化を目指すのならば、早急に改めるべきであろう。
アメリカでは最近はインターネットでの単位修得を認定している大学が多いから在学期間を短縮することは難しくないけれども、数年遅れてもよい成績で卒業する方が就職の面でも有利である。(アメリカの初任給は一人ひとり違う。)
入学手続きを終えると新入生(フレッシュマン)は、開講されているすべての講座の簡単な説明を記述した、分厚いガイドブックを渡される。アメリカの大学の学部の壁は限りなく薄く、広い意味での教養教育重点主義で、好きな科目はどれでも履修できると考えてよい。ダブル・メジャー(主専攻二つ)が可能なのもこのおかげだ。
キャンパス・ライフの最初の期間はサヴァイバル・コースに配属される。これは大学で「生き残る」ために最低限の技術を身に着けるためのものである。図書館の効率的な利用の仕方、論文の書き方、引用文献の扱い方などのほか、高度なコンピューターの使い方の指導もある。
この期間中に希望する講義のシラバスをもらって検討し、登録する。シラバスは日本の大学でも徐々に取り入れられていて「講義概要」と呼ばれているが、そんな単純なものではなかった。シラバスは、大学によっても、担当者によっても異なるが、まず講義が目指すものと教授の意図が明示された後、セメスターの第1回から最終回まで、毎週の講義の概要と、学生が出席する前にあらかじめ読んでおくべき参考文献が、①市販中のもの、②本学図書館にあるもの、③外部図書館にあり借り入れ可能なもの、が分類列記してある。1回分がA4用紙1枚に裏表いっぱいに書かれている。
学生はこれを見て受講の登録をするので、シラバスは教授と学生の契約書とも言われる。教授はその通りの知識を授けることができなければ契約違反で追及されるし、教授は25人程度の受講学生の座席を指定し、2回欠席すると理由のいかんを問わず出席停止を命じることがある。休講はない。授業には担当教授の専門科目を専攻している大学院博士課程のティーチング・アシスタントが常に教室に出ていて、教授に事故ある場合は、その回の講義をシラバス通りに代講する。学生による講義評価(Students’ Evaluation)については稿を改めなければならないが、そこで著名な教授の話よりも代講の方が要領もよく分かりやすかったという反応が出ることもある。
大学の対応も至れり尽くせりである。例えば経済原論の講座が①②③④と四つ設けられているときに希望学生が100人を超えると、大学はすぐに担当の講師を補充採用する。聴講希望の学生は人気のある教員から順に面接を受けて、少数の「定員」の枠に入れてもらえなければ、最後には臨時増員講師の講義を受けることになり、そこでは独自のシラバスが整備されていないこともある。
2期目のセメスター以降だと教員は応募学生の成績を選抜の要素に加えるかもしれない。日本の多くの大学ではマイク授業の大教室でまとめて収容されるところだが、アメリカではどこまでも選抜と成績が付きまとう。一方で、頑張れば、貸与ではなく給付型の奨学金を支給されるチャンスがあり、優等生は卒業後も特別のクラブに所属することが許される。努力せざるべけんや。
(おおくら・ゆうのすけ)