研究課題の現場の人と濃密な関係構築を

「ROJE関東教育フォーラム」開催

変わりゆく時代 変わりゆく大学~問い直そう!大学の役割~(4)

 NPO法人日本教育再興連盟主催の関東教育フォーラムが5月15日、YouTube上でZoomを使った形式で開催された。「変わりゆく時代 変わりゆく大学~問い直そう!大学の役割~」と題して行われた。東京大学公共政策大学院教授であり、慶應義塾大学政策・メディア研究科教授の鈴木寛氏はオンライン授業と対面授業のミックスの仕方、学生が大学に何を求めているのか、真剣に考えてほしいと語った。(パネルディスカッションでの発言要旨)。


東大教授・慶應大教授の鈴木寛氏、「大学って何なの」

研究課題の現場の人と濃密な関係構築を

東京大学大学院教授・慶應大学教授 鈴木寛氏

 コロナ禍で一挙に劇的に環境が変わった。「大学って何なの」という原点に学生も戻る時だ。OECD教育スキル局2030の理事もやっている。そこで、学校とは何ぞや、という議論を5年くらいやっている。コロナ禍はこの議論に大きく拍車を掛けてくれた。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長の伊藤羊一先生の提起された「圧縮された人間関係」は重要なキーワードだと思う。

 1995年から25年間「鈴寛ゼミ」をやっている。東大と慶應の学部と大学院生で100人くらいいる。ゼミでは「知人・友人・同志」という言葉が“語録”にある。SNSで友人は増える。だが、一晩とか、数晩かけて語り明かさないと「真の意味での友人にはなれない」。そして、一緒にプロジェクト(研究や事業)をやってみて、けんかして、もめて、大変なこともあるが、それを乗り越え、やり遂げて、真の意味での仲間・同志になれる。学生にとって、とても大事な時期だと思っている。

 圧縮された人間関係を誰とつくるか、ということになるが、大学の学びは「学生同士」「教員と学生」が基本だが、研究課題の現場の人と濃密な人間関係も必要になってくる。

 慶應の大学院(修士課程2年)の話だが、学生は半期の間、大学の授業を受け、残りの1年半を田舎の漁村とか農村で住んで週1回オンラインで集まり、授業をしている。現場の農業・漁業関係者と、めちゃくちゃ濃密な関係を構築できる。研究にものすごく役立つ。

 対面で濃密な関係ができれば、あとはオンラインでも十分。2、3、4年生はオンラインでも良いが、かわいそうなのは1年生。コロナ禍で濃密な関係をつくる機会を失ってしまった。

対面をどうミックス、大学に何を求めて来たのか考えて

 対面とオンラインのベストミックスを考える必要がある。大教室の授業はオンラインの方が良い。なぜなら一人一人が最前列で授業を受けているようなものだからだ。大教室で一番後ろの方は教員・学生双方とも、遠過ぎて、何をしているか、分からない。

 大規模授業はオンラインが絶対良い。コロナ対策で“3密”を避けるため、五つか六つのサテライトで講義が構成されている。5~6人の仲間とか、2人とか、じっくりと聞きたいから1人でという学生もいる。

 大学は124単位取得すると卒業できる。通学制の場合、対面授業以外(メディア授業、オンライン、ハイブリッド含め)は最大で60単位しか認められていない。個人的には大学の裁量の範囲で好きにさせてもらった方が良いと思っている。

 60単位制度を取っ払うと、通学制と通信制の差別化がなくなってしまう。慶應などの通学制の授業料が4年間で450万~500万円くらい。通信制は少なければ約100万円で卒業できる(早稲田は同額)。通信制は、もう一度学問がしたい、という社会人学生が増えている。

 年数を気にしないことで、学びたい科目に集中して、カネと時間をかけて学ぶので、留年は多くても、学ぶ志が高く、卒業率は上がている。

 大学に高い授業料を払って、その対価は何なのか、学生は考えてほしい。有名大学に受かったという証明が欲しい人。良い授業を受け、知識や技能を身に付けたい人。無二の親友を獲得したい人、就職で生かすために大学を卒業したという証明が欲しい人、それぞれいる。医師、看護師、教員とか薬剤師とか、大学の卒業証書を持っていないと国家資格が取れないものもある。

 学生たちは大学に何を求め、何に対して授業料を払っているのか、真剣に議論してほしい。

(終わり)