「左派独裁」 退場か継続か 韓国、大統領選モードに
保革両陣営で出馬表明
来年3月の韓国大統領選挙に向けた動きが本格化している。保革両陣営から有力候補が相次いで出馬表明するなど、国内は「大統領選モード」に突入。最大の焦点は強権的な内政と理念偏重の外交を繰り返した文在寅政権のいわゆる「左派独裁」に終止符が打たれるか否かだ。
(ソウル・上田勇実)
対日政策に違いも
「政権交代できなければ改悪と破壊を改革だと言い、独裁と専制を民主主義と称す扇動家たちと腐敗した利権カルテルが今よりもっと幅を利かせる国となり、国民は長く苦しめられるだろう」
先月29日、事実上の大統領選出馬を表明した尹錫悦・前検事総長は政権交代の必要性をこう訴えた。
尹氏は最近の各種世論調査で、次期大統領に相応(ふさわ)しい人物として支持率が20%台から30%台でトップに踊り出るようになった。「反文在寅」の旗幟(きし)を鮮明にしており、今後、保守系の最大野党「国民の力」に合流するとの見方が多い。
「尹錫悦人気」の最大の理由は、自ら権力型不正疑惑に捜査のメスを入れ、相手が誰であろうと法治に基づく正義を貫こうという姿勢をゆるがないものとしているためだ。
もともと尹氏は朴槿恵前大統領を弾劾・罷免に追い込んだ国政介入事件を捜査した人物。文氏がその“功労”に報いるように尹氏を検事総長に飛び級式で抜擢(ばってき)したが、今度は尹氏が文氏周辺の疑惑を捜査するよう命じた。韓国では珍しく政権の顔色をうかがわない毅然(きぜん)とした態度が国民の目にカッコよく映っているようだ。
一方、今月1日には与党「共に民主党」の李在明・京畿道知事も出馬表明した。李氏は「誇らしい金大中、盧武鉉、文在寅政権の土台の上により有能な第4期民主党政権として国民の前に立ちたい」と述べ、過去の韓国左派政治を受け継ぐ考えを明らかにした。
李氏も次期大統領としての支持率で尹氏と1位を争う有力候補。大統領選への出馬は前回に続き2回目で、「判断力が優れ、仕事が早く、必要と思えば反対を覚悟で実行に移すなど政権運営する人には欠かせない資質を持っている」(盧武鉉政権の元側近)というのが内輪の評価だ。
ただ、国会議員の経験はなく、与党内では非主流派で、李氏以外にも与党から出馬表明した8人を相手に候補選出の党内選挙を勝ち抜き、公認を得なければならない。
過激な発言で「韓国のトランプ」という異名まで付けられたほか、「典型的なポピュリスト(大衆迎合主義者)」(韓国メディア)という批判も付きまとってきた。李氏はかつて国が全国民に定額の現金給付を保障する基本所得制(ベーシックインカム)の導入を主張したが、財源の問題などから与党内で反論が上がると、すぐさま「最重要の公約ではない」と一歩退いた。
有力候補の出馬表明を受け、関心が高まるのは次期政権の対日政策だ。慰安婦合意の一方的な反故(ほご)や大法院(最高裁)の元徴用工判決への無対応などで、日本の韓国不信は戦後最悪とも言われる。
尹氏は日韓関係について「過去の歴史は真相を明確にすべき部分があるが、未来の世代のため実用的に協力すべき」と述べ、未来志向を強調。一方の李氏は「支持者が反日路線を望むので文政権同様の政策を取る可能性が高い」(韓国の大手シンクタンク幹部)という。政権が保革いずれになるかで対日政策にも違いが出てきそうだ。
まだ選挙まで8カ月余りあるが、候補者たちに対する周囲の動きは早くもヒートアップ気味だ。
政府高官の不正を捜査するため新設された「高位公職者犯罪捜査処」が職権乱用容疑などで尹氏に対する捜査に着手するなど、事実上のバッシングが始まっている。李氏も過去に取り沙汰された女優とのスキャンダルが再び問題視されている。
韓国大統領選では得てして見られた光景だが、保革両陣営による相手候補に対するネガティブ・キャンペーンがエスカレートする可能性もある。