イージス艦衝突事故、外部要因の可能性も

ビル・ガーツ

 米海軍のイージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」とタンカーがシンガポール付近のマラッカ海峡で衝突した事故について、サイバー攻撃、電子戦によって引き起こされた可能性が指摘されている。

専門家、GPSの乗っ取りは可能

 ジョン・リチャードソン海軍作戦部長は21日、外部要因による事故の可能性についての質問に対し、サイバー攻撃を含めあらゆる可能性について調査を行っていることを明らかにした。海軍情報筋によると、サイバー攻撃または電子戦によって衝突が引き起こされたという証拠はない。

 しかし、2カ月前にはイージス艦「フィッツジェラルド」が日本近海で商船と衝突し、7人が死亡しており、外部からの何らかの電子的な要因が原因ではないかという見方が出ている。

 米運輸省海事管理局は6月22日、黒海で意図的に「GPS(全地球測位システム)障害」が引き起こされた可能性を報告した。ロシアによる電子戦ではないかとみられている。この海域では過去に、ロシアの船舶と航空機が米海軍の艦艇と偵察機を挑発したことがある。

ジョン・S・マケイン

衝突事故で左舷後方を大きく損傷した米海軍第7艦隊のイージス艦「ジョン・S・マケイン」=21日、シンガポール沖(米海軍提供)

 ロシアによるとみられるGPSスプーフィング(偽信号による攪乱〈かくらん〉)を最初に報じたのはウェブサイト「ニュー・サイエンティスト」だった。同サイトによると、海事監理局は、ロシアのノボロシスク港付近を航行中の船舶の位置が、GPSで30㌔以上内陸のゲレンジーク空港と表示されていたという。

 GPS機器の点検を行ったが、異常は発見されなかった。付近を航行する20隻以上の他の船舶でも、現在地を報告する船舶自動識別装置(AIS)からの信号が、現在地を間違って表示していたという。

 テキサス大学のロボット工学教授、トッド・ハンフリーズ氏は、ロシアが、航行機器に偽の電子信号を送ることで、船舶を航路から外れさせることができる電子戦兵器の実験を行った可能性があると指摘した。

 2隻のイージス艦についてハンフリーズ氏は記者(ビル・ガーツ)に、「フィッツジェラルドの事故が起きたばかりで、マケインの乗組員はいつも以上に警戒していた」はずであり、艦艇が人的過失から2度も同じような事故を起こすことは考えにくいとした上で、「GPSスプーフィングやAISスプーフィングが衝突に関わっていた可能性は理論的にはあり得るものの、依然、乗組員の不注意である可能性が最も高いと思っている」と、事故が意図的に起こされたとの見方には否定的だ。艦艇のGPSは暗号化され、スプーフィングは難しいからだ。

 マケインに衝突したタンカーのAISが乗っ取られた可能性もあるが、それでは、マケイン側が、接近するタンカーに気付かなかったことの説明にならない。

 ハンフリーズ氏によると「偽のAIS信号を送り、船上の電子海図表示システムに存在しない船を表示させることは難しくない」という。