同一労働同一賃金の実現を

秋山 昭八4弁護士 秋山 昭八

企業に制度見直しの動き
正規・非正規の待遇差を解消

 パート社員が課長や主任に昇進できるよう人事制度を見直す企業が出てきた。仕事の能力が高く本人が希望する場合、勤続3年で期間の定めがない無期雇用に転換し、時給は正社員並みとし、賞与も支給するという政府の進める同一労働、同一賃金制度を先取りした働き方改革で、優秀な人材確保につなげるという制度である。

 役職に関係なく柔軟な働き方を認めて人材を有効活用するのが狙いで、仕事の能力が高い人は無期雇用に転換し、1年間の働きぶりを評価して、係長や課長などに昇進できるか判断する。無期雇用に転換した後のパート社員の時給は、同じ仕事をする正社員と同等にしようとするもので、1年間の働きぶりを評価し、係長や課長に昇進できるかを判断して、パート役職者が誕生することになる。

 無期雇用に転換した後のパート社員の時給は、同じ仕事をする正社員と同等にする。

 改正労働契約法では、有期契約で5年を超えて働く人が申し出ると、企業は無期雇用に転換しなければならない定めになっている。

 かつて非正規労働者というのは、主婦パートであるとか学生アルバイトであるとか、世帯の主たる働き手ではなかったところ、最近、非正規労働者でありながら、世帯の生計を支えるべき立場である者が増加してきたということ、それが、日本型同一労働同一賃金が政策課題となった一番の理由である。

 これらの非正規の労働者の方がやりがいを持って、非正規は非正規なりに職業生活を全うできるということは、社会政策上重要であるというだけではなく、これらの方の生産性を高めるということが、少子高齢化の中での経済成長の確保には必要ということである。

 政府は2016年12月20日、次のような同一労働同一賃金ガイドライン案を発表した。

 本ガイドライン案は、正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現に向けて策定するものである。同一労働同一賃金は、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものである。

 わが国において正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間には欧州に比較して大きな処遇差がある。政府としては、この問題の対処に当たり、同一労働同一賃金の考え方が広く普及しているといわれる欧州制度の実態も参考としながら検証した結果、それぞれの国の労働市場全体の構造に応じた政策とすることが重要との示唆を得た。

 不合理な待遇差の解消に向けては、賃金のみならず、福利厚生、キャリア形成・能力開発などを含めた取り組みが必要であり、特に、能力開発機会の拡大は、非正規雇用労働者の能力・スキル開発により、生産性の向上と処遇改善につながるため、重要であることに留意すべきである。

 このような正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消の取り組みを通じて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにし、我が国から「非正規」という言葉を一掃することを目指すものである。

 1900年代後半以降の日本の労働市場における最も大きな変化は非正規労働者の急増である。「就業構造基本調査」によれば、97年に24・7%であった非正規雇用比率は、2007年には35・6%へと上昇し、役員を除く雇用者総数の3分の1以上が非正規労働者になった。

 この10年の非正規雇用増大の特徴は、労働者派遣法をはじめ労働法制の大幅な規制の緩和・撤廃が生み出した、処遇は非正規ながらフルタイムで就業する派遣社員、契約社員、嘱託社員等の増加である。パート、アルバイトが10年間で1・25倍前後の増加にとどまったのに対し、派遣社員は6・2倍、契約社員・嘱託は33・4倍に増え、07年のフルタイム・非正規労働者は500万人規模に達している。

 賃金格差が最も大きいのは、男性のフルタイム・正規とパートタイム・非正規間(51・0)である。これに女性のフルタイム・正規とパートタイム・非正規間格差(64・9)が続き、男性間格差が女性間格差を上回っている。男女間賃金格差は71・9と最も大きい。フルタイム・非正規でも女性の契約・派遣社員の賃金水準は男性の8割に及ばない。

 07年の日本の男女間賃金格差は、経済開発協力機構(OECD)諸国の中で韓国に次いで2番目に大きい。しかも女性の賃金が男性の60%台にとどまっているのは韓国と日本のみである。アメリカをはじめ多くの諸国では、格差が依然としてあるとはいえ、女性の賃金水準は男性の80%を超えている。

(あきやま・しょうはち)