安倍改憲案の致命的欠陥

小山 常実大月短期大学名誉教授 小山 常実

可決は正式の属国化宣言
自衛戦力と交戦権を肯定せよ

 昨年10月、『自衛戦力と交戦権を肯定せよ』(自由社)を出版した。この本は、交戦権(臨検・拿捕の権利、敵領域で戦う権利、占領行政の権利、海上封鎖の権利その他)の否認がいかに恐ろしい結果を招くのかについて記した本である。仮に自衛隊が軍隊として扱われたとしても、交戦権を否定されたままではミニ国家にも勝てないこと、そして中小国家にさえも敗北することを説いた本である。だからこそ、交戦権を否定された日本は、米国に保護される属国中の属国として生き続けてきたのである。

 ここで今、安倍改憲案が国民投票で通過すれば、正式に交戦権が否認され、正式の属国化宣言となるものである。仮に、米国が東アジアから手を引いていき中国の属国となった場合には、日本は、ウイグルや内蒙古などと同じ運命をたどり、国家として消滅していく可能性が出てくるであろう。

 しかも、最近2カ月ほどの間に、安倍9条改憲案が国民投票で否決されれば何が否決されたことになるのか、新たに明らかになった。昨年12月15日付の読売新聞朝刊に、「9条改正の論点」という記事が掲載された。この記事は、「国民投票『否決リスク』」という大見出しを掲げ、「安倍首相(自民党総裁)は9条1項、2項を維持した上で、自衛隊の根拠規定を憲法に追加することを提案した。『自衛隊は違憲ではない』と明白にすることが目的だ。もし、その改正案が国民投票で否決されたら、何が否定されるのか。改正案が認められなかったという事実にとどまらず、自衛隊の合憲性が否定されたことにならないか」と記している。

 自衛隊は日本の国防の中心であるから、ただでさえ脆弱(ぜいじゃく)な国防体制は完全に破壊されることになろう。それ故、この記事も、「自衛隊の存在を明記する憲法改正案が否定されれば、『内閣が倒れるだけでなく、我が国の安全保障や存立基盤を揺るがす一大事だ』と政府関係者は口をそろえる」と記す。このように安倍改憲案が国民投票で否決されたら、特に中国から侵略されなくても、すぐに日本は存立基盤の危機を迎えるのである。

 それでは、日本の自立、生き残りを願う人はどうしたらよいのか。民主主義の原則からすれば、国民投票を棄権して国民投票そのものを不成立に持っていくことが考えられる。しかし、国民投票法には、国民投票成立のための最低投票率が定められていない。従って、自公両党が安倍流の「日本国憲法」改正案を国会で可決させ、国民投票にかけた瞬間に、例えば10%の投票率でも、国民投票は有効なものとして成立する。つまり、国民投票で可決されても否決されても、第9条第2項の護持が正式に確定し、日本は交戦権を持たない国として正式に定式化されるのである。何とも、民主主義を無視した制度なのである。

 しかも、もう一度言うが、もしも国民投票で否決されたならば、自衛隊は違法の存在となり、解散しなければならなくなる。属国としての定式化どころか、即滅亡の危機が訪れる。そこで、安倍流改憲を進める人たちは、国民投票前には「自衛隊をなくしてもよいのか、解散するわけにはいかないから賛成しろ」という運動を行うものと思われる。いわば、自衛隊を人質にして形だけの改憲、実質的には改悪を進めようとするだろう。

 安倍案の問題性に気付いているからであろうが、青山繁晴参院議員が、第9条第3項に「本9条は自衛権の発動を妨げない」と規定する改正案を提案し、一定の賛同者が生まれているという。青山氏は、この案によって自衛隊は軍隊となり拉致被害者も救出できることになると信じている。しかし、青山案は、何の意味もない改正案である。そもそも、現在の政府解釈は自衛権を肯定した上で自衛権を行使する機関として自衛隊を肯定しているものである。青山案も現状固定案でしかない。安倍案と同じである。しかも、この案が国会から発議され、国民投票で否決されれば、自衛権も否定されたことになるから、安倍案の場合と同じく自衛隊を解散しなければならなくなる。つまり、青山案は、安倍案と同じく、可決されても属国化の固定、否決されれば即滅亡を招く案である。

 青山氏とその同志たちは、そして安倍首相自身も、初心に帰って、最低限、昨年5月3日の安倍案発表までの改憲派の常識に立ち返るべきである。すなわち、第9条第2項を削除し、自衛戦力と交戦権を肯定する「日本国憲法」改正案を立てなければならない。さらに言えば、『自衛戦力と交戦権を肯定せよ』でも強調したように、今最も行うべきは第9条解釈の変更である。第9条の作成者である連合国軍総司令部(GHQ)のケーディスも自衛戦力と交戦権を肯定する解釈を認めていたのだから、安倍首相が勇気を持てば、すぐに両者を肯定する解釈に転換できるはずである。それこそが、憲法というものに対する正しい態度であり、日本の独立につながる態度である。

(こやま・つねみ)