トランプのアメリカ、明確な保守派大統領
トランプ米大統領の就任から20日で1年を迎える。世界を振り回す「異端児」が担った米国の舵(かじ)取りは、何をもたらしたのか。毀誉褒貶(きよほうへん)渦巻く1年の成果と課題を総括する。
オバマ路線と決別
保守団体会長が絶賛「望むことやってくれた」
ロシア疑惑、目まぐるしく入れ替わるホワイトハウスのスタッフ、波紋を呼ぶツイッター発言…。トランプ氏の就任1年目は一見、混乱とスキャンダルまみれだったかのように映る。特に「反トランプ」の姿勢を鮮明にするリベラルな米主要メディアと、その受け売りが目立つ日本の大手メディアの報道は、その印象を一層強くする。
トランプ氏の大統領らしからぬ言動と素人的な政権運営が混乱を招いたことは否定できない。だが、トランプ氏が大統領に選ばれた意義をもう一度振り返ってみる必要がある。それは、オバマ前大統領がヒラリー・クリントン元国務長官に託そうとした「リベラル革命」の継承を阻止したことだ。
オバマ氏とクリントン氏には、政治思想の源流に決定的な共通点がある。共に、米国を漸進的に社会主義化していく理論を体系化したシカゴの極左活動家、故ソウル・アリンスキー氏の思想に傾倒していたことだ。本人に自覚はないかもしれないが、トランプ氏は米最高権力者のバトンがアリンスキー氏の弟子から弟子に渡るのを防いだのだ。
問題は、トランプ氏がオバマ氏のリベラル路線を明確に否定し、保守路線に転換したのかどうか。就任1年の節目に、まず問うべき最大のテーマだろう。
2009年まで民主党に属し、政策面でもリベラルだったトランプ氏に対する保守派の不信感は極めて強かった。大統領選で最後まで支持しなかった保守派の知識層が多くいたのは、トランプ氏を明確な保守哲学の持ち主ではないと見なしたためだ。
ところが、大統領に就任すると、保守派の人材を次々に入閣させた。保守派が英雄視するレーガン元大統領の下で教育長官を務めたビル・ベネット氏も、トランプ政権をレーガン政権以上の保守政権だと評する。
また米社会に絶大な影響力を持つ連邦最高裁判事には、保守派のニール・ゴーサッチ氏を起用した。高裁判事も次々に保守派で埋めている。
経済政策では、1兆5000億㌦の大型減税を盛り込んだ税制改革を実現したほか、規制緩和も積極的に進めてきた。政府の役割や規制を減らし、民間活力で経済成長を目指す方向性は、「小さな政府」を大原則とする保守主義と完全に合致する。
一方、不法移民に厳しい姿勢は、「レイシスト(人種差別主義者)」と批判される大きな要因となっている。だが、国境を守り、不法入国者の流入を防ぐことは国家が果たすべき当然の責務だ。歴代政権が放置してきたその責務をトランプ政権は本腰を入れて取り組んでおり、これもオバマ政権からの劇的な転換だ。
こうして見ると、トランプ氏が明確な保守派大統領であることは間違いない。
実際、保守派団体「米国保守同盟」のマット・シュラップ会長は、ワシントン・ポスト紙に「トランプ氏は保守派が望むことをほぼすべてやってくれた」と絶賛。大統領選では反トランプだった保守系誌ナショナル・レビューも「トランプ政権は1年目に実績を堅実に積み上げた」(ラメシュ・ポヌル上級エディター)と高い評価を与えた。
型破りなトランプ氏に今後も世界は振り回され続けるだろう。それでも、米国がトランプ氏の下で保守路線へと舵を切ったことは紛れもない事実である。
(ワシントン・早川俊行)






