対北包囲網の構築 米韓分断工作、制裁逃れに直面
「善かれ悪(あ)しかれ、この2018年のうちに北朝鮮において根本的な変化が起きるかもしれない」
スタンフォード大フーバー研究所の歴史家、ビクター・デービス・ハンソン氏は、最近の論評でこう指摘した。北朝鮮に対する一連の国連制裁によって、今年中ごろには、産業や交通が事実上まひするだけでなく、飢餓をもたらす可能性もあると予想している。
トランプ大統領は就任後、北朝鮮の核・ミサイル開発を傍観したに等しいオバマ前政権の「戦略的忍耐」を「失敗だった」と断じて、圧力路線へと転換。北朝鮮に対し「最大限の圧力」をかける方針で日韓と連携し、国連安全保障理事会の制裁決議を主導するなど、国際包囲網の構築に努めてきた。
ランド研究所のブルース・ベネット上級国防アナリストは「(国際的な圧力を主導した)トランプ氏の貢献を軽視すべきではない」として、北朝鮮に強い影響力を持つ中国に圧力をかけ、石炭の輸入禁止や石油の輸出削減を認めさせた同氏の取り組みを評価する。
しかし、今年の1月1日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が年頭の演説で平昌冬季五輪への代表団派遣を提案することによって「対話ムード」を演出。同国の交渉担当者は、「核兵器や弾道ミサイルは米国だけを対象としたもので、われわれの同胞(韓国)に向けられたものではない」と述べるなど、融和的な韓国の文在寅大統領を引き寄せ、包囲網を切り崩す意図を露(あら)わにし始めた。
他方で、包囲網の「抜け穴」も指摘される。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は19日、中国人が保有または運航する船舶少なくとも6隻が北朝鮮の制裁逃れに関与したことを示す衛星画像や機密情報を米政府が国連の制裁委員会に提出したと報じた。また、ロシアも洋上で北朝鮮船に石油製品を積み替えている疑いがある。
昨年末の国連制裁では、石油精製品輸出の9割近い削減を盛り込むとともに、北朝鮮が今後、新たな核実験や長距離ミサイルを発射した場合には「石油供給をさらに制限する」と明記している。中国が拒否する石油の全面禁輸をしない限り北朝鮮の核放棄は困難との見方も広がる中、日米韓が結束を保ち、中露に制裁強化を促せるかが問われる。
まだ未完成と言われる大陸間弾道ミサイル(ICBM)技術を北朝鮮が手に入れるのは時間の問題とされる中、米国が軍事行動に踏み切る可能性があるとの見方も根強い。
WSJ紙は9日、米当局者が「全面戦争を勃発させることなく、北朝鮮に対する限定的な軍事攻撃が可能かどうか」について議論していると報じた。北朝鮮の報復によって、多大な犠牲者を生むリスクがあるため政権内にも異論があるが、今後の展開によっては「2018年半ばには審判の時を迎えるかもしれない」と軍事攻撃の可能性を指摘する。
トランプ氏は17日、ロイター通信のインタビューで「難しいポーカーをやっている。手の内は見せないものだ」と述べ、先制攻撃の可能性について否定も肯定もしていない。一方で、年明けから北朝鮮との対話に前向きな発言も繰り返しており、北朝鮮や中国に妥協をする懸念も残る。
今後、緊迫感が増すことも予想される北朝鮮問題にどう対処するのか、トランプ外交の真価が問われるのはこれからだ。
(ワシントン・山崎洋介)





