第3次安倍内閣の安保課題

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

7・1閣議決定法整備

中国軍備膨張に日米で対処

 選挙が終わり、第3次安倍内閣が発足した。同内閣へ期待する政策について若干の所見を披露したい。第一は当然アベノミクスすなわち、経済、財政の着実な回復である。

 増加する社会保障負担、災害復興負担を抱えながら、増税の影響を極限しつつの舵取りは、困難を極めることだが、是非、確実な成果を上げてほしいものである。消費税10%の実施時期を1年半先送りし、市場の回復をにらむ処置が、今回解散総選挙の大きなトリガーであったが、野党の論戦にも拘らず、大方の賛意を得たことは内閣にとって大きな成果であったと言える。

 安倍内閣のもう一つの成果は、防衛・外交政策における基本姿勢に対する国民の賛意である。その最たるものは、集団的自衛権に関する閣議決定(7月1日)である。これは、従来「集団的自衛権」は憲法が禁ずる武力行使にあたるとされてきた画一的解釈は、時代・国際環境の変化に対応できるものではなく、平和国家としての立場を堅持しつつも、国民の生命・自由・幸福を追求する基本姿勢から求められる国家活動の中には、個別的・集団的自衛権とは異なる見地から実際的な検討を行っていくべき事態があるとするものだ。PKO活動における「駆けつけ警備」に代表されるような不具合を個別に検討し、法整備を行おうとするものである。

 従来の歴代内閣が、「重要な問題点」と認識しつつも、事実上避けてきたこの問題に真正面から取り組む姿勢であり、これに「賛意」を与えた国民の意思は大きいと思う次第である。

 今後、具体的事例を焦点に法制の整備、これら可能行動をもとに日米防衛協力の指針(ガイドライン)の見直し作業、さらに日米共同作戦計画作業といった関連の行動計画が、新情勢に対応しつつより堅確な形で整備されていくこととなる。誠に結構なことである。従来は、我が国の本土防衛、我が国の安全に重大な影響を及ぼす周辺事態などに関連した計画体系であったが、今後は、中国軍事力の急速な膨張、北朝鮮の核開発などを踏まえ、平時からの危機管理を原点に、日米双方の役割、行動が検討の中核となると予想される。国民への安心を担保する意味から、より緊密な計画作業を実施してほしいと思う次第である。

 中国は近年、やりたい放題といった国際法令を無視した独特のスタンダードを主張しており、東・南シナ海を中心に緊張が高まる可能性があり、周到な対応を準備しておく必要がある。今後その趨勢(すうせい)について注目しておく要点を挙げる。まず第一は、何回も指摘した中国海軍の空母建造、原子力潜水艦開発増強などの動きである。訓練空母「遼寧」に続く2番艦、3番艦の建設が開始されたと公表され、2番艦は「遼寧」同様のスキージャンプ方式を大連造船所で、3番艦は全通甲板を持つ本格空母を江南造船所で建造するという情報が流れている。

 本件は未だ不明のことが多く、推察の域を出ないが、搭載航空機をはじめとする技術的な面から、当面は東・南シナ海を遊弋(ゆうよく)する沿岸空母に留まるであろうと考えている。理由は技術的母体ともいうべきロシアですら本格的外洋空母としての実績に乏しいことである。おそらく、10年20年、たとえ外洋に出ても、各国の調査船、原潜に追跡され、宇宙空中から一挙手一投足を監視されると予想される。しかし、同シナ海水域においては、長大な海岸線に沿って航空力を柔軟に運用できるほか、尖閣を含めて係争群島域において、軍事的恫喝(どうかつ)をはじめ、紛争対応に大きな力を発揮する事は間違いないところ、具体的対応が必要である。

 第二は、南沙群島での飛行場建設関連である。南沙群島は、南シナ海南部洋上にあり、フィリピン、マレーシア、次いでベトナムに近く中国は最も離隔している。十数個の小島、岩礁、砂洲からなり、サンゴ礁の特性上、暗礁、浅瀬が多くある。小島には、フィリピン、マレーシア、ベトナム、台湾が領有権を主張し飛行場を含む施設を持っている。中国は1973年以降領有権の主張を強化してきたが、最近、暗礁を活用し飛行場建設を大規模に行っている。

 考えてみれば、400海里離れた岩礁に本格的飛行場を持つということは、大変な投資である。建設費は勿論、常時運用を可能にする維持費、天象・海象に耐え、建造物を維持する経費は通常の計算ではペイするものではない。おそらくは、今後係争が続くであろう領有権、経済水域(EEZ)の拡大による地下資源の占有、そして軍事的には、核ミサイル搭載原潜の「静かな海」を海南島周辺に確保する前線基地、我が国を含めたマラッカ海峡をシーレーンとする諸国への威圧などを睨(にら)んだものと考えるのが適当だろう。

 先日、米軍P8哨戒機に対する中国戦闘機の威嚇的超接近飛行が報じられたが、13年前の海南島事件以来、中国はEEZにおける他国の哨戒、情報収集飛行を制限することを繰り返し主張しており、符牒(ふちょう)の合う話ではある。

 このような中国の軍備膨張とその長期的戦略を推察するとき、今回の指針をはじめとする我が国防衛のための諸作業は、日米双方の東アジアにおける平和と安全を平時から一層堅確にする高い意思の下、国民の期待を背負って努力してほしいと考えている。第3次安倍内閣の最重要課題として、真剣な取り組みを期待するところ大である。

(すぎやま・しげる)