白人労働者票がトランプ氏再選のカギ
バージニア大学政治センター カイル・コンディック氏
2020年米大統領選の見通しについて、選挙分析に定評があるバージニア大学政治センター政治アナリストのカイル・コンディック氏に聞いた。
弾劾はトランプ米大統領にとって有利、不利どちらに働くか。

カイル・コンディック氏 オハイオ州検事総長の政策研究ディレクターや政治コラムニストを経て、現在、バージニア大学政治センターで政治アナリストを務める。選挙情勢の分析に定評があり、著書に『先導者 なぜオハイオ州が大統領を選ぶのか』など。
トランプ氏の支持率は通常40%台前半だが、不支持率は50%を超える。これに対し、弾劾への支持と不支持はほぼ拮抗している。トランプ氏を支持しないが弾劾はすべきでないと考える有権者が、しぶしぶ同氏に投票すれば、有利に働くだろう。
一方で、再選選挙は、現職大統領への信任投票という側面がある。弾劾をめぐってトランプ氏に対する厳しい見方が強まれば、不利になる可能性がある。
ただ、11月の本選挙までまだ時間があるので、それほど大きな影響を与えないこともあり得る。
息子のハンター氏をめぐる問題がバイデン前副大統領の選挙戦に与える影響は。
バイデン氏の問題は、ハンター氏がウクライナの天然ガス会社「ブリスマ」の役員になった経緯について、きちんとした説明ができていないことだ。トランプ氏は他の人たちを自分と同じ泥沼に引きずり込むことに長(た)けているが、バイデン氏にもそれを試みている。トランプ氏の主張は必ずしも事実として正しくないが、バイデン氏が腐敗していると印象付け、自分の方がマシだと思わせようとしている。
トランプ氏が前回大統領選に出馬して以来、共和党支持者の構成はどう変わったか。
トランプ氏が出馬する前から非大卒の白人、特に労働者層が共和党を支持する傾向が強まっていた。その代わり、大卒以上の白人は、民主党支持に回り、非白人とともにその支持層となった。この流れをさらに加速させたのがトランプ氏だ。小都市や地方がより共和党色を強める一方、大都市郊外が民主党寄りになっている。
トランプ氏にとって幸いなことは、接戦州の多くは非大卒の白人が比較的多く住むエリアだということだ。トランプ氏がこうした層からの票を維持、もしくは上積みすることができれば、大都市郊外で失う票を埋め合わせることができる。
トランプ氏は支持層を活性化することだけで再選できるか。
そうは思わない。2016年大統領選の出口調査によると、トランプ、クリントン両候補のどちらに対しても好意的でない人が全体で約20%いたが、そのうち30~40%がトランプ氏に投票した。だから、トランプ氏を好まない有権者の票も当選に少なからず寄与している。支持層を活性化することは重要だが、同時にこうした票を取り込む努力も必要だ。
無党派遠ざける民主左派
何が接戦州の勝敗を決定づけるか。
民主党にとって肝心なことは、アフリカ系米国人を投票所に向かわせられるかだ。オバマ前大統領が退任して以来、民主党はアフリカ系米国人からの票が減少している。他方、トランプ氏にとっては、白人労働者層からの支持を維持できるかが重要だ。
見過ごされがちなのが、リバタリアン党や緑の党など二大政党以外の「第三の党」に投票した人たちだ。こうした党の得票率は、前回大統領選の各接戦州で約6%を占める。
トランプ氏の低い支持率を考えると、各接戦州で51%の票を得るのはハードルが高い。しかし、前回大統領選のように47、48%程度で良いなら、より容易だ。その意味で、誰が「第三の党」の候補になるか注視するべきだ。
民主党指名争いでトップを走るバイデン氏の強みと弱みは。
強みは、オバマ前政権で副大統領を務めたことから、多くのアフリカ系米国人の支持を得ていることだ。また、イデオロギー色が薄く、安心感がある。特に以前は共和党支持者だった有権者で、トランプ氏が嫌いだが、急進左派のサンダース、ウォーレン両上院議員の政策を好まない層からの支持を期待できる。
弱点は、説得力のある巧みな演説ができないことだ。また、急進左派のような明確な政策構想を持たないため、若い人たちの間に熱気を呼び起こすことが難しい。「トランプ氏でない」ということ以外にはっきりとしたビジョンが見えない。
サンダース、ウォーレン両氏が指名を獲得した場合、本選挙で無党派層や民主党穏健派を遠ざけることになるか。
両氏の立場は無党派層から見ると左に行き過ぎている。彼らはトランプ氏の政治を徐々に軌道修正することを願っていて、「メディケア・フォー・オール(国民皆保険制度)」のような抜本的な変革は望んでいない。こうした政策を通して新たな支持者を掘り起こす可能性もあるが、米国は他の先進国と比べ保守的な有権者がまだ多い。
予備選序盤のアイオワ、ニューハンプシャー両州で、インディアナ州サウスベンド前市長のブティジェッジ氏が高い支持を得ている。
ブティジェッジ氏は、大卒白人の一部の間で人気が高い。しかし、非白人からの支持が弱いことは予備選を戦う上で、問題がある。白人が多い両州で良いスタートを切る可能性があるが、その後は困難に直面するだろう。
現時点でトランプ氏再選の可能性はどの程度か。
支持率を見るとトランプ氏にとって厳しい選挙が予想されるが、好調な経済も考慮すると五分五分だ。今後、経済状況の劇的な変化、国外における危機、民主党候補や「第三の党」の候補が誰になるかが選挙結果を左右する。
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