強まる人権弾圧、史上最悪の統制国家に

米中新冷戦 第1部「幻想」から覚めた米国 (7)

 昨年11月、ワシントンのシンクタンク、ケイトー研究所が開催した中国新疆ウイグル自治区の人権侵害をテーマにしたシンポジウム。司会者からこんな強烈な意見が表明された。

800

2018年11月28日、中国のウイグル族抑圧をテーマにワシントンのケイトー研究所で開かれたシンポジウム

 「中国は新たな収容所群島だ」――。

 旧ソ連の作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンは、著書『収容所群島』で多くの人民が投獄され、拷問や処刑を受けた強制収容所の実態を告発したが、100万人以上ともいわれるウイグル族を収容所に拘束する中国は、現代の収容所群島だというのである。

 シンポジウムでパネリストを務めたアトランティック誌の女性記者の発言も衝撃的だった。ユダヤ人家庭に生まれ、親族からアウシュビッツ強制収容所を逃れた話などを聞いて育ったことを紹介しながら、中国のウイグル族迫害をホロコースト(ユダヤ人大虐殺)と重ね合わせたのである。

 このように、少数民族の抑圧や人権活動家の弾圧、インターネット検閲などを強化する中国を、米国ではソ連やナチス・ドイツと同列視する見方さえ出ている。激化する米中対立は経済問題が最大の焦点だが、人権問題も米国の態度を硬化させる大きな要素となっている。

 情報技術革命は中国に自由をもたらすと期待されたが、中国政府は逆に新たな技術を国民の監視・統制に利用しているのが実情だ。中国政府は国内に設置した2億台の監視カメラを6億台以上に増やす計画で、最先端の顔認証技術と合わせ、当局は誰がどこで何をしているか、すぐに把握できるようになる。

 また、中国の異質さを示すのが、政府が全国民を行動や思想で格付けする「社会信用システム」だ。品行方正で政府に従順な人ほど信用度スコアが高く、社会サービスで優遇を受けられる一方、スコアが低いと公共交通機関の利用を制限されるなどの「罰」がある。

 米メディアによると、昨年5月までにスコアの低い1100万人が航空機、400万人が高速鉄道のチケットを購入できなかったという。中国社会で生きていくにはスコアを上げなければならず、そのためには政府に服従しなければならない。

 ワシントン・タイムズ紙編集顧問のデービッド・キーン氏は、英作家ジョージ・オーウェルが近未来小説『一九八四年』で描いたような監視社会が「現代中国で急速に現実化している」と指摘。先端技術を用いて全国民の行動や思想を監視・統制する中国の体制は「ヒトラーやスターリンも実現できなかったものだ」と論じた。

 人権問題は米中間の主要争点になってはいないが、今後はイデオロギーの戦いがカギを握るとの見方は少なくない。レーガン政権で対ソ情報戦略の立案に携わったジョン・レンチャウスキー世界政治研究所所長もそう主張する一人だ。

 レンチャウスキー氏は、本紙の取材に「冷戦時代、ソ連を悪い共産主義、中国を良い共産主義と区別したのは戦略的大失敗だった。人間の尊厳を否定する共産主義はすべてが悪だ」と断じた上で、こう指摘した。

 「軍事的、経済的な圧力も重要だが、最終的には中国国民が自分たちの足で立ち上がり、人間の尊厳を取り戻せるように後押ししなければならない。勝負を決めるのはイデオロギーの戦いだ」

(編集委員・早川俊行)

=第1部終わり=