中国の世論工作、多方面への浸透に警戒感
米国など民主国家に広く浸透する中国の世論工作の実態について、米国で関心が高まっている。それらが、米国が掲げる自由や人権などの価値観を脅かしているとの警戒感からだ。
米シンクタンク、フーバー研究所などは昨年11月に32人の中国専門家による報告書を発表。その中で、中国の対外工作について「ロシア以上に多くの資源と力を投入し、広範な分野にわたって介入を行っている。より一層、監視を強める必要がある」と警鐘を鳴らし、米国でのメディア、シンクタンク、企業、議会における事例を取り上げた。
それによると、中国は過去20年間で米国で中国語メディアのほとんどを買収などによって支配。その一方、2008年北京五輪以降からは国営メディアの海外支部を急増させるなど英語での報道を強化し、宣伝工作を進めている。
また、米国の学者に対して、中国へのビザの発給を拒否したり、現地でのインタビュー対象者、調査、文献へのアクセスを制限している。これが学者たちに圧力を与え、自己検閲を招いていると指摘した。
米非営利組織「全米民主主義基金」が17年12月に恫喝(どうかつ)や買収、情報操作などを伴う中国の世論工作を「シャープパワー」と名付けた論文を発表し、注目を集めた。その頃から、中国の世論工作の実態について扱った報告書が、シンクタンクや議会関係機関などから相次いで発表されている。
こうした関心の高まりは、対中関与政策で中国が民主化に向かうという期待が裏切られ、逆に中国の工作活動の影響から民主主義の価値観を守る必要に迫られている現状を物語っている。
「中国共産党は、われわれよりもずっと先の段階のことを考えてきた」。大学における中国の浸透工作について取材してきたジャーナリストのべサニー・アレン・イブラヒミアン氏は、昨年10月に米シンクタンクのハドソン研究所で行われたセミナーでこう強調した。1990年代前半に米国の中国人留学生らが帰国後に中国に民主主義をもたらすとみられていたが、中国はそれを防ぐため、学生や中国系住民に対して「統制やレーニン主義、権威主義を広げようと多大な努力をしてきた」という。
イブラヒミアン氏は、近年、中国人留学生への監視の目が強まるだけでなく、訪米した習近平国家主席を歓迎するために動員されるなど、政治的な活動への参加要求が高まっていると指摘した。
昨年6月に中国の対外工作について報告書を出したハドソン研究所のジョナス・パレロ・プレスナー上級研究員は、研究者やジャーナリストがその実態についてさらに調査を進めることが重要だと主張。米議会の超党派で対策に乗り出すなど、米国内で「十分ではないが、意識は高まってきている」と語る。
中国への対抗手段の一つとして、フーバー研究所の報告書では、中国が米国の学者やジャーナリストに対して国内へのアクセスを制限し続ければ、米国も同様に中国メディア関係者や学者に対して、ビザを制限することを提案している。
中国の世論工作にどう立ち向かうか、米国でこうした具体策も出始めている。
(ワシントン・山崎洋介)